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【研究のススメかた】良質な参考文献の見極めかた

1. 記事の狙いと想定読者層

研究を進めるうえでのTIPSをまとめていくシリーズです。筆者が指導教官を務めるゼミや授業での活用を念頭においています。

読者層としては「大学の学部または大学院で、卒業論文/修士論文研究に取り組む」人たちを想定しています(すでに研究者として独り立ちしている同輩の皆さまや、そのタマゴとしてすでに修士論文研究等は経験済みの博士課程大学院生の方々にも、ご参考になるかもしれません)。

以前アップした「先行研究レビューの実作業のやりかた」をご覧いただいた方のうち、何名かから「先行研究レビューの進めかたについては大枠理解した。納得感もある。しかし、

読むべき参考文献とスルーすべき(あるいは優先順位を下位に設定すべき)文献との見極め方が分からない」

とのフィードバックをいただきました。そこで今回は、質の高い参考文献の見極めかたについて、僕はこうして判断しています、というお話をまとめます。

2. まずは「地図」=理論を確認しましょう

良い参考文献を探すにあたり、いきなりGoogle ScholarCiNiiのサイトにとぶ、のは悪手です。なぜなら古今東西、ガリレオやニュートン以来連綿と積み重ねられ続けてきた文献の山に闇雲に手を突っ込んで、それで「当たり」の論文がみつかる、なんていうのは天文学的な確率でありえないことだから。なので、このあたりを探ればたぶん何かあるはず、という見当をつける必要があります。

そこで役に立つのが「理論」です。

研究というのは――少なくとも、研究機関で研究者として身を立て、ジャーナルと呼ばれる学術誌に論文を発表するような研究者が行うそれは――究極、「理論を検証する」か、「理論を新しく提唱する」か、のいずれかを狙いとしています。言い換えると、あらゆる研究は上記どちらかの面で理論に向き合っており、逆に理論にまったく言及しないままに書かれたものは、すぐれたレポートや随想ではあるかもしれませんが、科学的な研究ではありません。

なので、あなたが参考文献を探すときにも、必ず何らかの理論が探索の軸になります。

たとえば、組織と組織をつなぐ人の行動や影響力に興味があるのであればストラクチュラル・ホール理論や弱いつながりの強さに関する理論、リーダーシップとチームの関係性に興味があればトランスフォーメーショナル・リーダーシップ理論やLMX理論、といったように、あなたが現時点で関心を寄せるテーマが何であれ、たいていはいくつかの理論が関連しそうな筋としてパッと浮かび上がります(ここのところ=「そのテーマに興味があるなら、◯◯理論とか調べてみたら?」という初手のところについては、一旦指導教員のガイダンスを受けてみることがオススメです)。言い換えると、理論が参考文献を探す旅における地図となるわけです。

でも、その地図をどうやって手に入れたらいいのか?そもそも世の中にどんな理論があるのか、それぞれがどんな領域に関するものなのかも分からないのに…と思われるかもしれません。それは、あなたがまだ「研究」を始める前の、「勉強」のステップにいる、ということです。

ふつう、大学院レベルの課程で開講される授業では、『Handbook of ~』と題された手引書の購読/輪読が課せられます。それを通読すれば、当該領域に関わる主な理論の概要がつかめる、というのがそれら手引書の機能で、自分で研究をしようと思ったら、まずはそこから、ということですね。僕のゼミでも、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄教授が書かれた『世界標準の経営理論』をゼミ指導前に購読するようにゼミ生の方々にはお願いしています。

これによって、出発点となるテーマが見えてきたら(※1)、それに関連しそうな理論をキーワードにして参考文献を探していけばいい、という戦略が実行可能となります。

※1「研究テーマは、どうやって決めればいいのか?」という点については、別途noteをまとめましたので、そちらをご参照ください。

3. 古典と出典を使って絞り込む

興味があるテーマに関連しそうな理論をキーワードにして検索するところまでたどりつきました。今度は、そこからさらに読むべき文献を絞り込むフェーズに入っていきます。

Handbookや手引書で解説されているようなメジャーな理論をキーワードにして検索をかけると、ふつうは何万、何十万本という論文がヒットします(※2)。これ全部に目を通していると、それだけでライフワーク。実質半年~数ヶ月で書き上げなければならない卒論や修論研究でそれをやるのは、研究を始める前から白旗をあげるようなものです。

※2 Google Scholarを使って英語で検索をかけた場合。CiNiiで日本語検索をした場合は、テーマと理論によっては「これ、どうやって絞り込むか悩むよりも、いっそ全部チェックしちゃったほうが早いかも?」くらいの本数――たとえば、数十本くらい――しかヒットしないこともあります。そのときは、この節で述べていることはすっとばしてしらみつぶしに目を通してみるのも一手。ただし、その場合には、英語で同じテーマ、理論について書かれた情報を見落としているリスクがかなり高いので、個人的にはGoogle Scholar×英語検索をオススメします。

なので、ここから「古典と出典」を使ってフィルターをかけていきます。

「古典」とは、先述のHandookや手引書で参照されているような、ザ・メジャーな論文のことです。多くの場合、その理論を提唱した学者本人が書いたもので、その後の研究がこぞって参照・引用しています。

そのような古典をフィリターとして使うときは、論文の末尾に記載されている参考文献リストを使います。つまり、面白そうな論文を見つけたら、中身を読み込む前にまず一気に最後のページにとんで、参考文献リストをチェックする。そこに当然あるべき古典がリストアップされていなかったら、危険信号と判断します。たとえば、リソース・ベースト・ビュー(Resource-Based View、RBV)にもとづいて研究した、とアブストラクトなどで謳っていながら J.B.Barneyの論文が参照されていないとか、トランスフォーメーショナル・リーダーシップを取り上げているはずなのに B.M.Bassの名前が見当たらない、などというのは間違いなくモグリです。一般読者向けのビジネス書ならまだしも、学術論文の体裁をとっていながらそんな怪しい「文献」にでくわしたら、そっ閉じして次に進みましょう。

もう一つのフィルタリングである「出典」とは、あなたがいま読み込むべきか否かを判断しようとしている論文が、どんな学術誌に掲載されているかという出典情報からその質を推定するやり方。

学術誌は、完全なピラミッド型ヒエラルキーの世界です。ザ・トップオブトップの超一流誌からずーっと上位、中位、下位とランキングがされています。もちろん、なかには「なぜこんなに素晴らしい論文が、こんなmiddle-/low-ranked journalに!?」というケースもないわけではありませんが、経験を重ねて論文の中身についての目利きに自信がつくまでは、ハイランクなジャーナルに載った論文を優先的に読む、という戦略をとるのが無難かと思います。

学術誌のランキングについては、各ジャーナルのウェブサイトにいくと大体目立つところに「◯◯領域において何位」というランキング情報が掲示されています。たとえば、経営学関連のトップジャーナルの一つであるAcademy of Management Journal、通称AMJのサイトをみると、「#9 of 217 journals in the category of “Management” | #9 of 147 journals in the category of “Business”」(「マネジメント」領域で217のジャーナル中9位、「ビジネス」領域の147のジャーナル中9位)と記されています(2020年2月15日時点)。

ただ、参考文献を探していて、検索してヒットした論文一つひとつについて、毎回このように掲載ジャーナルのウェブサイトを探してランキングをチェックするのは骨が折れるし、効率的ではありません。しょっちゅう目にするジャーナルについてはこのアプローチでランキングを確認するとしても、別の方法はないものでしょうか…?

それが、あるんです。

それは、「有力学術誌をまとめたリスト」を参照すること。

たとえば、英国ファイナンシャル・タイムス誌は、毎年「FT50」と呼ばれる独自の有力学術誌ランキングを公表しています。

「ファイナンシャル」タイムス誌の選定なので、やはり金融・ファイナンス関連のジャーナルが多くランクインしているなどの偏りはありますが、このリストに含まれているジャーナルに掲載された論文であれば、参考文献の候補として問題は少なくともないと思われます。

そのほかにも、Scientific Journal Ranking(SJR)といって、世界中のジャーナルをランクづけしてくれているサイトもあったりします。ただし、こちらは物理学や数学から経済学、人文学まで、文字通りあらゆる分野のジャーナルを網羅するものなので、SJRのページに行ったら、まずページ上部の「Subject Area」で「Business, Management and Accounting」を選択するなど、ちょっと手間はかかりますが。

4. イモヅル式に論文をつなげていく

ここまで「古典と出典」を頼りに絞り込みをかけてきて、ひとまずコレとコレから読んでみようかな?と思える論文が二、三本はみつかったでしょうか?はじめは試行錯誤というか、「アレ、やっぱり何か違うような…」と手戻りするようなことがあるかとは思いますが、何回かやってみるうちにすぐコツがつかめます(そんな大層なスキルではありません)ので、身構えずにまずはやってみることを強くオススメします。

そうして、わりと面白いと思える論文がみつかったら、読み終わった後で、その中の参考文献リストを活用しましょう。というのも、面白い論文が参照・引用している論文は、同じくあなたの興味関心にマッチする可能性が高いからです。

この「ある論文を読む→その参考文献リストをチェックして、その中から面白そうな論文を次に読む→その参考文献リストをまたチェックして…」とイモヅル式にやっていくと、あなたの知識がどんどん豊かになっていきます。

ただし、「読んだ論文の参考文献リストからさらに別の論文を探す」という戦略だけだと、最初に読んだ論文よりも以前に発表された論文しか射程に入ってこないため、より最新の研究動向や理論的発展を見落としてしまうというリスクがあります。

この問題を解決する方法として、Google Scholar等のデータベースで「Cited by」というリンクを調べてみましょう。これは、当該の論文を参照している、より最新の論文のみを表示してくれる機能です。

イモヅル式に過去の参考文献を探し、Cited by機能でより最新の論文もチェックするようにしていくと、一本の論文からいくつも別の面白い論文につながっていきます。しかも、それらはすべて、もともとあなたが読んで面白いと思った論文を共通点としていますから、改めてゼロから別の参考文献を探すよりもずっと効率的に文献探索が進む可能性が高いはずです(ただし、逆に言えば最初に読んだ論文とは別の視点や理論に軸をおく研究とはつながりにくいので、イモヅル&Cited byだけですべての参考文献を探そうとするのは無理筋です)。

5. 定期的に進捗共有

最後に、良質な参考文献を見極めるためのもう一つの戦略をお伝えします。

それは、指導教員やゼミ生、あるいはそれ以外の教員や先輩同輩後輩に、あなたの研究の進捗を共有する機会を積極的に持つこと。

「今こんなテーマで、これこれの理論をベースに研究を進めています。ここまで読んだ先行研究ではこういうことが言われていて、自分としてはどうもこのあたりに検証すべき課題があるんじゃないかと思って、それで最近はこんな文献を読んでいます」

こうした共有をすると、「そのテーマだったら、この論文も読んでみたら?」みたいにフィードバックや情報提供を受けられます(プロの研究者だと「私のやってるテーマとつながりそうだね。今度共同研究やってみない?」みたいにコラボレーションの契機になることも)。

研究は――卒論であれ、修論であれ――最終的には、どのみち人に報告し、公開するものです。だったら、最後の最後まで引き伸ばして、ぶっつけ本番で最終審査に特攻かけるよりも、こまめに進捗を報告して、適宜サポートを受ける(自分以外のゼミ生が彼女/彼の現状を共有してくれたら、それに真摯に耳を傾け、できる限りのサポートを自分からも返す)ようにするのが合理的だし、一番リスクが少ないやり方だと思います。

6. まとめ

今回は、「どうやって良質な参考文献を見極めるか?」に関するノウハウをまとめてみました。

まずメジャーな理論について勉強し、文献の山のおおまかな「地図」を手に入れる。次に、「古典と出典」をフィルターとして活用し、検索でヒットした論文を絞り込む。さらに、面白い論文がみつかったら、それを読むだけではなく、イモヅル&Cited byアプローチをフル活用して、つながりのある文献を探していく。そして、定期的に指導教員やゼミ仲間に進捗を共有して、フィードバックや情報提供を求める。

このやり方を実践して、それでも全然いい文献がみつからない、ということはまずありえないと思います。

良質な参考文献が見つかったからといって良質な研究ができるわけではありませんが、良い研究をするには良質な参考文献を読むことが欠かせません。皆さんの研究プロジェクトが実りおおいものでありますように――。

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