平沢淑子 ~撮影ノオト~
パリのアトリエにて。
居間の窓下には、隣接する建物の庭園が広がり、バラが一面に咲くのを見渡せた。「見事な眺めでしょう。このジャルダン(庭)が気に入ってここに移ってきたの」
パリ、サンミッシェル大通りに面するアパルトマンの自宅兼アトリエに初めて平沢淑子を訪ねたのは、1985年の5月だった。彼女は私を近くの瀟洒なレストランでの昼食に招いてくれた。木漏れ陽の中で、たっぷりと時間をかけた食事の後、再び自宅に戻ってから、気がつくと時刻は夜半を過ぎていた。
初対面なのに、12時間以上も一緒にいたことになる。優美なしぐさで、細いたばこの紫煙をくゆらせて、微笑みながら語るのは、不可思議な物語。すっかり聞き惚れてしまった。
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