ライドシェア体験考
ものは試しと、先日、とあるライドシェア的なドライブをしたので、それについて書いてみよう。
今回取り上げるライドシェアは、長距離相乗りタイプで、私がドライバーであるパターンだ。つまり、ネットでヒッチハイカーを募って載せていった、的なことだ。
成立するルートと、しないルート
私が所用でドライブする三つのルートの予定を、相乗り募集かけてみた。
一つは、東京23区内から名阪地区経由で、淡路を経て徳島、香川に向けたルート。日曜夕方発に設定した。
もう一つは、香川から岡山経て広島に抜けるルートの往復。日曜午前発と、平日夕方発。
最後は、香川から徳島のルート。休日午後発。
おおかたの予想通りの結果で、東京発・名阪経由の四国行きは、東京〜阪神で相乗りが複数入り、それ以外の二つはノーアポだった。
この相乗りサイトでは、そこそこ距離のある大都市間交通か、地方中核都市と大都市間交通、もしくは大都市から行楽地を往復するツアー的な移動にほぼ需要が集中している。
地方to地方は、高速バスなどで事足りる程度の需要しか無いようだ。
相乗りのメリデメ考
相乗りサイトを使うメリットとデメリットを、主に載せてもらう側から考えてみよう。
メリット1 乗降場所(ルート)の多様性と柔軟性
相乗りサイトを使わず移動する場合(つまり競合する比較対象)、おそらく最右翼は高速バスやタクシーになるだろう。
高速バスは、リーズナブルでプロドライバーにより運ばれる安心がある反面で、乗降場所が特定されておりバス停まで別途の移動が必要だったりする点と、時刻表設定されたタイミングに縛られる制約がある。
タクシーは、乗降場所の柔軟さは最強だが、距離に対するコストは割高だし、必然的に使える距離に制約が出る。東京大阪間をタクシーで移動は、楽かもしれないが怖くて企画できないという庶民の皆さんが大半だろう。
その点、相乗りサイトの場合、会員がそれなりに多いと、東名阪に関しては、かなりバリエーションのある相乗りオファーが出る。もちろん、タクシーなどと違い、ドライバー側の都合がやや優先されて交渉となるので、乗降場所や時間帯に妥協はほぼ不可欠にはなる。しかし、東京駅ではなく二子玉川でピックアップして東名高速へ、といったオリジナリティのあるルート設定も可能性がある。
タクシーよりは自由が効かないが、高速バスよりは自由効く可能性がある。良い案件がなければ高速バスにするけど、まずは相乗り探そうか、と利用側は企てやすいだろう。
メリット2 多くの場合、交通費安くなる
これは、ドライバー側の募集の掛け方によるのだが、結果的には他の手段より、同じ距離移動するのに掛かる金銭負担が小さくなることが多い。
これは、相乗りサイトの運営として、ドライバーにかかる負担(燃料代、高速代等)の一部負担を求めることしかできず、また相場が見えているのであまりに割高設定される案件は回避できるからだ。
当然、一回のドライブに多くの同乗者を募ると、一人当たり負担は減る傾向にある。よって、東京大阪間を4〜5,000円程度で移動することもよくある。
一つ目のメリットで記述したのと同様、経済的にもオイシイ案件があれば相乗りし、無ければ高速バス、という行動をとりやすい。
メリット3 車種を選んで乗ることも
相乗りサイトでは、そのドライバーの車種も多くの場合は開示されている。よって、乗車時の快適性が見込める高級ワンボックス車の案件に絞って探すなどすれば、独立シートの高速バス以上の快適性で移動できる可能性もある。
多くの場合、タクシー以上、ハイヤー未満くらいな快適性は得られるだろうと期待できる。
デメリット1 色々自己責任
これは、直近のライドシェア報道でも指摘されている点だが、色々の面で自己責任になることだ。
相乗りサイトの場合、「ドライブするドライバーに、載せてもらう」色が強め。無論、口コミ評価機能があって、レピュテーションで一定の抑止が効くと言えば効くものの、搭乗者に対する保険の具合とか、ドライバーの運転技術や運転特性は、その人の車に実際乗ってみないと正確には分からない。
何より、バスやタクシーといった事業者と違い、他人の命を預かって人を運ぶ組織というわけでは無いので、見ず知らずの素人ドライブに乗っけてもらうものだ、という点は、大いにリスク認識はしとかねばならない。
デメリット2 搭乗者は顧客じゃ無い
前述したが、相乗りの場合、移動コストを分担して載せてもらう構図であり、対価を支払ってサービス提供を受けるものでは無い。
すなわち、提供サービスに対するコミットメントは、究極的に言えば無い。待ち合わせに遅参したり、最悪すっぽかされても、訴え出る場所はなく、せいぜい口コミ低評価付けて評判落としたりするくらい。
よって、確実に、安全に、コミットされたサービスを受けたいと思うケースでは、相乗りサイトでは文句言えないような不満が生じるリスクは一定ある。
ライドシェアも、一口に語れなさそう
さて、そんなこんなで体験してみて、その上でいろんな議論を見聞して、私の思うところ。
ライドシェアも、一口には語れないな、ということだ。
ライドシェアを語る際、どんな地域の、どんな需給状況を念頭にしてるかで、話はズレズレになるだろう。
長距離相乗りは、ライドシェア傍流
私の主観だが、ライドシェア導入議論で俎上に上がる課題について、この長距離相乗りは全くヒットしてないということ。
長距離相乗りの競合は、タクシーというよりは高速バスだろう。確かにバスドライバーの不足も問題になってはいるが、今のライドシェアの議論では、主にタクシー周りが念頭にあるように思う(特に都会の議論)。
ウーバーやDiDiがこの議論の引き合いによく出るが、そういったライドシェアアプリが巻き取る需給も、近距離や隣接都市へのタクシー移動的なものであって、長距離をリーズナブルに移動することは念頭に置かれてないように見える。
大都市にライドシェアは要るのか?
近距離や地域内交通で見たときに、どんな地域について語るかで、また必要性や実現性に差が出るだろう。
メディアなどで語られるのは、大都会に住まう人の言説が多くなるので、一番念頭に置かれてるのは首都圏かと思う。
個人的には、首都圏では、ライドシェアは実現性はあると思うが、需給逼迫してないから不要では?と思う。
そもそも大都市圏の場合、特に首都圏中心部は、地下鉄や鉄道、バスが発達していて、生活の足としてオンデマンドにポイントToポイントで移動する手段はあまり求められない。狭い土地に、多くの自動車がひしめいており、何気に自動車を転がすのも苦労する。休憩やトイレをするにも、一苦労なのが大都会。
識者で、よく北米の都市でのウーバー利用体験など引き合いにする人が居るが、正直、日本の大都市の集積度は、そんな都市より格段に上で比較にならないと思う。どっちかと言えば、東南アジアの大都市寄りに近いように思う。
タクシー業者も登録台数も大都市圏に集中していて、タクシー以外の手段も豊富で、なんなら供給過剰では?とすら思える。
地方中核都市は、むしろタクシー増やしたら?
札幌とか広島とか、田舎の政令指定都市は、もしかしたらタクシー増やしても良かったりしないかな?と考えてみたり。
全く統計的考察してないので、個人的な経験と勝手な思い込みで言うのだが、地方中核都市の場合は、コンパクトシティが効いて県内・地域内の中小都市から人を吸い込んでるように思える。その割に、大都会ほどきめ細かく公共交通が整備されておらず、大都会ほどの集積度も無い。
供給を増やす必要性が最も高いのは、実はそういった地方の中核都市だったりしないかな、と勝手に思ってる。
では、増やすのに、バス・タクシー・ライドシェアのいずれが相応しいのか。私はおそらくタクシーと思っている。
田舎は車が不可欠とか言われるが、地方中核都市のど真ん中は、意外と車無しも居る。一方、首都圏などと違って、車無しOKエリアは非常に狭いので、郊外はほぼ車必須。
ところが、田舎のドライバーは、家族友人ネットワークでの配車と、代行で賄っていたりする。代行はある種の(片道の)ライドシェア的機能を果たしているような。
田舎の高齢者の免許返上が問題と言われるものの、老人ホームやコンパクトシティ化が、車無しで生活する老人の溜まり場を形成してる面もあるように思う。
タクシーを増やし、自治体が高齢者のタクシー利用補助など施すことで、成立しないかなー?などと。
ガチの田舎はどうか
これもまたひとまとめは乱暴だが、平成の大合併後の都市でありながら、人口20万人を切るような市町村は、大都市とも地方中核都市とも話は別になってくる、と思う。
そう言うまちに降り立てば分かるが、例えば駅前にも若さ・活気に乏しい。タクシーも居ないか、居てもボロい。バスも貧弱で、自家用車移動がマスト化しているのがほとんど。
かろうじて代行があれば御の字で、代行もない場合は、家族知人ネットワークの足の相互扶助でもろもろ成り立つ。「今日は世話になってる先輩が飲み会だから、オレは晩酌せずに控えて、夕飯後に送迎しないと」なんてこともザラだ。
こんなまちでは、タクシーは流しはゼロ。電話してもなかなか思ったように配車受けられるのも難しい。一番間違い無いのが、まち1番の大病院の前に付け待ちしてるのに乗りに行くことだったり。もはや、「自分の近くに拾いに来てくれるのがタクシー」という期待すら難しかったりする。
こんなまちに、ライドシェアを導入するとどうなるだろうか。相互扶助の「貸し借り」で成り立ってる、知人ライドシェアを補完または代替するのだろうか。
筆者は、この手の田舎のまちで、既に隠れ白タクが存在することも垣間見ているので、その隠れ白タクが表に出てくることになるのかなと思っている。その上で、田舎度が増せば増すほど、顔見知りネットワークが深いので、アプリでどうこうとかでなく、顔馴染みの白タク屋へのオーダーが増加するんだろうなと思う。
「お前、どこ中出身?」「お前、●●と懇意にしてるのか?」な会話が出るような田舎では、都会人が想像するようなwebベースな需給マッチングは日常的には起きない気がする。
また、田舎度が増すほど、都会的に洗練された消費者の態度・行動様式を持っていない。都会は、サービス受ける側も、一見な提供者からサービスを受けるのが当たり前であり、初対面らしい礼節が当然。田舎に行けば行くほど、初対面な相手のサービスを受ける機会が無くなる。お行儀の良い消費者行動を、取る人が少なくなる。新参者の提供者には、やり辛いことこの上ないだろう。
さりとて、よほどの名所でなければ、観光客などの一見ニーズも見込めない。益々、新規参入者も期待しにくいような。
ど田舎タクシーは、小所帯過ぎて収益性が低く、その割に一人前に間接費掛けてて、本来行うべき車やドライバーへの投資が回っていない。おそらく、合従連衡して間接部門をシェアし、本業体力をつけて存続発展を図る方が有効なような。
結論的に、ライドシェアは、あまり可能性を感じてない、というのが個人的所感。