見出し画像

パワーハングリーな人たち【Ep.6】

3ヶ月に一度の恒例行事「バス旅行の会」。
過去2回の参加で要領も得てきたころ。
ある日、大山さん宅で開かれた「バス旅行の会」の前夜祭のこと。
和やかな雰囲気の中で旅の計画を立てる予定が、その夜は思わぬ展開を迎えることに。


会長に指名される

「バス旅行の会」は、元バス会社勤務の川中さんが事務所の管理人代表として計画から準備まで担当していた。

私たちがマンションに引っ越して数ヶ月後、大山さん(副長)が親睦を深める目的で九十九さん(会長)夫妻を招いた「バス旅行の会」の前夜際におよばれすることに。みんなの酔いが回ると質問攻めにあうことも多いのですが、「ご近所付き合い」と割り切って参加することにした。

しかし、この日の食事会は会長の九十九さんの鶴の一声で急展開を迎えることになった。食事の最中に、九十九さんが突然「あの、私の後継にOOさん(主人)に会長をやってほしいんですが」と切り出したのだった。

私は戸惑いを隠せず、思わず笑いでごまかした。ところが、夫はこの申し出を真剣に受け止め、「頑張ります!」と即座に承諾してしまった。

こうして、息子ほども年齢の離れた私の夫が、突如として次期会長に指名されたのだった。

副長の大山さんは気に入らなかったのでは

日本に帰国して、終の住処を見つけ、コミュニティにも溶け込み、イベントの会長まで務めることになった主人。すべてがとんとん拍子に進んでいるように見えた。

ところが、主人が「バス旅行の会」で正式にミーティングの時間を設けることになった頃から、大山さんの態度に変化が見られるようになった。

管理人の川中さんが用意してくれたパンフレットに基づき説明を聞く私たち。すると大山さんは話が終わるや否や、「じゃあ、それでよろしく」とだけ言い席を立とうとしたが、主人が意見を求めて引き留めた。

これまでの「バス旅行の会」は、バス旅行の帰りに立ち寄ったスーパーで買った惣菜を、閉店中のレストランで並べて打ち上げをするのが通例。それを変えようと、主人は「みんなが所有しているレストランの厨房を使って、何か温かい料理を用意したほうがいいのでは」と提案したのだった。そこで、私たちは次の「バス旅行の会」で、カレーを作ることにした。

この提案に対して、大山さんの奥さんは「私も手伝うわ」と協力的だった一方、大山さん本人は苦虫を噛み潰したような顔をしたのを覚えている。

また、主人が「バスに乗り込んだら、コーヒーをサービスしてみたらどうか」と提案すると、大山さんは「いいんじゃない」と他人事のように答え、その場をそそくさと立ち去った。

どこか不穏な空気を感じながらも、その後の打ち合わせは管理人の川中さんと進め、結局コーヒーは私たちが早朝6時からマンションのレストランスペースで仕込み、バス内で提供することになったのだった。

大山さんの圧がかかる

「バス旅行の会」当日。主人はいつもウキウキ!会長就任後、初のイベントで楽しみだった。

バスが出発すると、直ちに管理人の川中さんから「会長夫妻からコーヒーのサービスです」とマイクでアナウンスが入る。参加者から拍手が起こり、主人も満面の笑みを浮かべる。

参加者からは「ありがとう」という声が漏れ、自分たちが提案したコーヒーサービスが成功したという確信で満足だった。

途中の休憩所でトイレ休憩を取ったとき。川中さんからは「ここでトイレ休憩です」とだけアナウンスが入り、みんな適当にバスの外に散らばっていった。

私は以前、国内外の添乗員をしていたので、通常の休憩時は「集合は○時○分です」と時間を決めるもの。しかし参加者は全員マンションのオーナーであり、たかだか25人ほどのグループ。

あえて時間制限せず、適度に戻ったところで出発というのがスタンスなんだとすぐ理解できた。そして、その方が焦らず自由でいい様式だと思った。

15分ほど経過したころ、参加者がそろそろバスに戻りだした。私も主人もバスの脇に立ち、バスに乗り込む人を横目にみながら雑談で盛り上がっていた。

するとそこに、眉間にしわを寄せて大山さんがやってきた。「会長なんだから、みんなをバスに返すように誘導したらどうなんだ!」と結構な剣幕。

こちらとしては「は?」と不意を突かれた気分。旅行中はいつも管理人の川中さんが添乗員の役目をしてくれるため、これまで2回の参加でも、焦らされた記憶がない。しかも前会長の九十九さんや、この大山さんでさえ、参加者を誘導する姿を見たことがない。

完全なる嫌がらせか?大山さんは、私たちが戸惑う姿を見て、「前の会長さんだってみんなの手助けをしているんだ!」といい超高圧的。

正直、「I didn't sign up for that shit.」と思って頭にきた。しかも、この休憩所に到達する前に、寄付でいただいたというビールの箱を積み込む際は、一切主人にも告げることなく寄付のお店の方に愛想を――媚びを?――売っていたのは大山さん自身。

自分が評価を受けられるところは独り占め。面倒なことは主人に押し付け、責任を感じさせるような圧力をかけてくる!「なんじゃこら??」

楽しかったはずの「バス旅行の会」に陰りが見え始めた。


※この体験記に登場する人々は実在の人物です。ただしすべて仮名でお送りしていますので悪しからず。
この後、大山さんの高圧的態度はさらにエスカレートします。
続きの記事もお楽しみに。

いいなと思ったら応援しよう!

耳なり
"Excellent choice, folks!"