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1週間の入院生活 no.4

入院7日目。
退院の朝を迎えた。
予定通り一週間の入院生活だった。

今朝の朝食から五分粥が開始になった。
点滴から始まり、流動食、三分粥、五分粥と続き、明日からは通常食の全粥となる。
昨日、初めて形あるものが味噌汁の椀に入っていた。
小さなサイコロ状に切った豆腐だった。
珍しいわけでもないのに、なぜか新鮮な気持ちになった。
そして、今朝の味噌汁には丸い麩とネギ、主菜のオムレツも登場した。
どれも舌でつぶせる硬さで、さすが病院食だと感心しながら食す。

ここでの食事は、娘が離乳食を食べていた頃を思い出させた。
やはり最初はおもゆ(流動食)だった。
これほどテンポは早くなかったけれど、同じ順序だった。
粥の上澄みをすくって彼女の口にスプーンでゆっくり流し込む。
最初はひと匙、次の日はふた匙と量を増やしてゆく。
その時一度、スプーンの中に米粒を一粒だけ入ってしまったことがあった。
舌で潰れるほどの硬さだったので、そのまま娘の口に入れてみた。
彼女はおもゆだけ飲み込み、一粒だけを律儀に舌で押し出してきた。
驚きと同時に、えらく感心した。
自分が食べられるものと、まだ食べられないものをちゃんと知っている。
身体が反応するようにできているのだ。
何もかもが手探りの日々、この一件で少し気が楽なったのを覚えている。

昨夜、ハン・ガンの『少年が来る』を五章から読み始め、深夜に読み終えた。
エピローグはこの物語を書くに至った、著者自身のことだった。
彼女は十歳の時、このこと(光州事件)を知った。
知ったというより偶然耳にし、その後も忘れてしまうことがなかった。
長い間ずっと胸の内に持ち続けた。
このエピローグを読みながら、思い出した作家がいる。
故大江健三郎氏だ。
デビュー作の『奇妙な仕事』は、彼の子ども時代の体験がベースにあった。
書かれた物事は違えど、彼らの作家としての資質が似ているように感じた。

入院中に持参した4冊を読み終え、あらためて『少年が来る』を最後にして良かった。
この本は再読にこそ意味があると思う。


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