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君の名はアルミ

ーアルミとあしたへー
朝刊の全面広告にこんなキャッチコピーが載っていた。
イラストの少女は後ろ姿で防波堤に腰掛けている。
その向こうは青い海と空、湧き立つ白い雲の横を飛行機が飛んでいる。
彼女がアルミ? ついつい、コピーを目で追ってしまった。
アルミ会社の広告のようで、彼女は『夢野アル美』というらしい。
イラストよりも私が目にとめたのは、アルミという名前だった。
『あるみ』という名で思い出す少女がいるからだ。

娘のなかよしの友達は「あゆみ」という名前で、私たちはあゆちゃんと呼んでいた。
彼女が生まれた時、お父さんは「あるみ」と名付けるつもりだったらしい。
この話を聞いたのは、彼女たちが小学生、高学年の頃だったと思う。
当時、娘から自身の名前の由来を聞かれたことがあった。
宿題か、そんな類の何かだったと思う。
娘の名前はエリック・クラプトンの曲のタイトルに由来する。
それを聞いて、なぜか彼女が爆笑したのを覚えている。
そして、あゆちゃんは、彼女が生まれたときお父さんが「あるみ」と名付けるつもりだったらしい。
「あゆみ」も「あるみ」からきたようだった。
理由は、お父さんがアルミ会社に勤めていたからだ。
アルミと名付けるつもりだったお父さんは、一体どんな人なんだろう?
お母さんとは何度か話したこともあったけれど、お父さんは謎だった。
よほど仕事が好きなんだろう、とも思ったような気がする。
アルミという名の不思議な響きが妙に印象に残っていた。

新聞の全面広告で、まさかこの名に再会するなんて。
あゆちゃんのお父さんの勤めていた会社とは違っていたけれど、アルミの会社だった。
知らない社名でも、全国紙にカラー広告を掲載するのだから、それなりの企業規模だと思う。

今頃、あゆちゃんはどうしているんだろう。
娘が他県の大学に行くまでは、連絡を取り合っていたように思う。
たまに彼女の口からあゆちゃんの名前を聞いた気もする。
この広告を、娘が、あゆちゃんが見たらどう思うだろう。
彼女たちの笑い声が、聞こえるような気がした。



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