高校生の日常

「チャンスだろ、早く話しかけろよ」

学校帰りの学生達で車内がひしめき合う中

その声は一際大きく聞こえてきた。

「電車内が混み合っている為、詰めてくださーい」

良い奴なのか、悪い奴なのか もはや分からない。

意中の女子生徒に近づけようとする。

「みんな応援してるんだよ」

「冷やかしと脅しにしか聞こえねぇよ。
 そういえば、今日何曜日だっけ?」

「火曜日」

「・・・お前ら、その目なんだよ」

話題を逸らそうとする彼に冷やかな視線が送られる。

「お前ら」と発せられた言葉に、座席に座っている乗客

いや、観客たちの肩がピクッと反応する。

電車内の座席は、甲子園球場の観客席と化していた。

彼は今、ピッチャーマウンドに立とうとしている。

「おい、あと一駅だぞ。お前、声かけられなかったらその駅で降りろよ」

「内容丸聞こえだから…」

揺れる車内の中で

男子グループと女子グループの距離は自然と近づいていていった。

「次は、明大前、明大前です」

急行は、何故こんなにも早いのだろうか。

電車が停車し、扉が開いた。

観客は息を飲むように彼の登板を見守っている。


「尾崎さん、じゃあね」

ー「うん、じゃあね」



予想だにしない結果に

観客たちはどこかソワソワしつつ

シーティングオベーション状態。

それが、彼の初マウンドだった。


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