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【#空き家問題】(一社)まちなか整備・管理機構 葛生代表理事の想い
国土交通省では空家対策の推進に関する特別措置法の改正や、不動産業による空き家対策推進プログラムの策定等、重層的な空き家の課題に対して様々な観点の政策に取り組んでいるところです。
今回は東京の足立区に拠点をおき、増え続ける空き家や老朽家屋に着目し、地域の良好な居住環境の維持向上を目的に設立された、「一般社団法人まちなか整備・管理機構」の代表理事 葛生貴昭さんにお話を伺いました。
一般社団法人まちなか整備・管理機構
まちなかで増え続ける空き家や老朽家屋の現状に着目し、地域に住まうひとの良好な居住環境を維持向上させていくためにどのような対応が可能であるか、問題意識を共有する専門家によって平成27年に設立された一般社団法人。東京都足立区において、建築士や宅地建物取引士等「空き家のプロ」が、空き家になってしまう理由や原因、課題を丁寧にひも解き、相続・提案・斡旋等の最善の改善策をワンストップで提供している。
葛生貴昭さん
栃木県栃木市出身(昭和52年生まれ)。新卒で民間不動産会社に入社。その後、退職しハワイ州オアフ島で不動産賃貸会社を運営。帰国し、株式会社村越不動産を設立し代表取締役となる。また、勉強会有志で一般社団法人まちなか整備・管理機構を設立し代表理事を務め、空き家問題の解決に取り組んでいる。
機構設立のきっかけは?
葛生さんが空き家問題に取り組みはじめたのはおよそ10年前。宅建業界団体の足立区支部の幹事だった葛生さんが、足立区と勉強会を行ったところから始まったそうです。
空き家の所有者がその出口戦略を考えるまでにクリアにしなくてはいけない課題は相続、解体、測量、助成金の利用の検討、借地権の整理など、多岐にわたります。一般的に、売買・賃貸仲介を行う不動産業者等にとって、再建築不可物件、狭小物件などの物件の取引については、費用対効果の側面から考えると、当時はまだハードルが高い状況にありました。
この勉強会の中で、「空き家の入り口から出口まで一気通貫で対応できる組織」が必要と考え、一般社団法人まちなか整備・管理機構を立ち上げるに至りました。
「一般社団法人まちなか整備・管理機構」の立ち上げ
葛生さんが代表理事を務める「一般社団法人まちなか整備・管理機構」は空き家の所有者が直面する課題を解決するプロフェッショナルで構成された団体です。葛生さん自身は宅地建物取引士であり、その他に司法書士、土地家屋調査士、一級建築士、弁護士、建物解体業の専門家などが所属しています。
葛生さんは長年、行政との関係について模索してきました。空き家に関する情報は、自治体の中でさまざまな部局で覚知することになります。福祉関係の部局や生活環境関係の部局で個別に把握した空き家の情報を集めるため、葛生さんは定期的に、役所内の各部局に空き家に関する情報を聞いて回り、担当者が困っている案件や、民間での解決ができそうな案件は一手に引き受けてきたそうです。
「一般社団法人」という立場で、葛生さんは補助金に頼ることなく、「民」と「官」を繋ぐ役割を模索しながら、自治体の業務を受託する形で空き家対策に取り組んできました。
「空き家無料相談会」の実施
一般社団法人まちなか整備・管理機構では平成29年から区役所での無料相談会を始め、令和2年から「空き家無料相談会」の業務を足立区から受託し、区内のコミュニティ―センターや地域学習センターにて定期的に開催しています。この相談会では、区民(もしくは区内に空き家を所有している方)からの空き家の管理・活用方法や売却・解体などを無料で相談に応じています。年間約50回の開催で、これまでの相談者数は400件、解決に至った空き家の数は約70%に上るそうです。
一般社団法人まちなか整備・管理機構の「空き家無料相談会」の特色について、葛生さんは、「同様の取組は多々あるが、相談はできても、完全解決までつながらないようなものが多いようです。わたしたちの相談会は『無料提案・完全解決・最後まで寄り添う』を心がけています。」と語ります。
空き家をどうしたらよいか、右も左も分からない相談者であっても、相談会で1時間も話せば、おおよその道筋をつけることは可能とのことです。
空き家の売却価格や、解体を選択した場合の費用など、具体的な金額の提示のみならず、利用できる助成金の提案など、できることはすべて行い、最終的な判断は所有者に委ねます。もちろん相談だけでもよく、相談会で提示された調査結果をもとに他の不動産業者などに対応を依頼することも可能です。
ライフワークになった空き家。その志はどこから?
一般社団法人まちなか整備・管理機構を構成する理事のみなさんは、葛生さんの熱意に共感し、地域の空き家問題を自らの専門性や経験を活かして解決しようと集まった志のある仲間だそうです。
「はじめた当初はここまで空き家問題と向き合うことになるとは思いませんでしたが、今ではライフワークです。わたしたちは都市の空き家問題のトップランナーとしてのプライドをもってこの活動に取り組んでいます。次のフェーズとして、わたしたちのような官民連携の取組を全国展開するにはどうしたらいいか、一般化するための方法を考えています。」とこれからの展望を語ります。
空き家の出口戦略は「活用」も。千住のまちの新たな注目スポット
「空き家」の所有者にとって、家族と過ごしてきた大切な思い出の詰まった実家を手放したり、解体したりすることの「心の整理」は、空き家の出口を考える上で、はじめに直面する問題ではないでしょうか。葛生さんが関わられた足立区の千住地域で、「解体」ではなく「活用」の道を選んだ空き家活用の事例があります。
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足立区の中心駅である北千住駅から10分ほど歩いた住宅街の中に、空き家をリノベーションし、新たな賑わいを生み出す拠点となった「せんつく2」があります。本物件は葛生さんが紹介し、千住地域で活動する建築家・青木公隆さんがプロデュースした物件です。耐震基準もクリアする形でリニューアルしたこの「せんつく2」には、飲食店や寺子屋をイメージした総合学習塾、無料フリースクールが入居しています。この「せんつく2」のプロジェクトには、地元の信用金庫と民間都市開発推進機構によるファンドが活用されており、空き家活用における資金調達の手法としても注目が集まります。
「空き家」問題は専門家の力を活用。国土交通省の取組
国土交通省では、社会問題となっている空き家について、昨年6月に「不動産業による空き家対策推進プログラム」を策定しました。特に、物件調査や価格査定、売買・賃貸の仲介など、空き家等の発生から流通・利活用まで一括してサポートできるノウハウを有しており、空き家オーナーの課題を解決に導く不動産業者さんなど専門家の力は非常に重要だと考えており、空き家問題に取り組む、もしくは取り組もうとしている様々なプレーヤーがそのノウハウを発揮できるよう、後押ししていきます。
建設産業・不動産業:不動産業による空き家対策推進プログラムについて - 国土交通省
また、国土交通省では空き家問題等に関心がある方に対し、国の施策や取組に関する情報や、「地域価値を共創する不動産業アワード」の受賞者等の開催するイベントや取組について、情報発信するニュースレターの配信を開始しました。ご関心のある方はどなたでも登録いただけますので、ぜひご登録ください。
地域価値共創プラットフォーム - 地域価値を共創する不動産業アワード 不動産・建設経済局長表彰 | 国土交通省