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サブカル大蔵経741文・POPEYE編集部/絵・蛭子能収『シティボーイの憂鬱』(マガジンハウス)
〈都市特有のブルース〉を描き出す。東京ニッポンの貴重な生活史となっています。
たとえばドライブの回では、
めっちゃいい曲あるでぇと、自分のiPodのジャックにつなぐiPodジャッカーなる人が登場。p.26
欲望と機器が結びつくと、最新のデジタルもアナログな暴力になる例。至る所でこういうことがあったんだなと感慨深いです。
そこに蛭子さんのイラストが添えられていく構成なのですが、欄外に「エビスさんのユウウツ」という一行コーナーがあり、そこが回を追うにつれ、ドキュメントの様相を呈していき、目が離されなくなります。
本書は、実は、先日認知症を告白した蛭子さんのために、POPEYE編集部が発刊したものなのではないかと夢想してます。
【エビスさんのユウウツ】
もの忘れがひどくなっていて、「それさっきも聞いたよね」と言われてしまうのが、憂鬱。(2016年11月号)p.45
最初は雑記録風でしたが、この時点で初めて〈もの忘れ〉という単語が出てきます。
年のせいかぼんやりしてきて、女房に頼まれたことを忘れ、怒られることが多くなり憂鬱。悲しいです。(2017年1月号)p.49
奥さんに怒られていたんだ…。
この連載の締切が毎回覚えられなくてユウウツ。(2018年6月号)p.85
この辺りから仕事に支障が出るライン。
年のせいか、全部忘れちゃう。何も思い出せないのが憂鬱。(2018年7月号)p.87
〈何も思い出せない〉
ポパイの締切が今回も覚えられなかったのがユウウツ。(2018年8月号)p.89
原稿を送ろうとしたけど切手がなくてユウウツ。(2018年9月号)p.91
仕事に支障をきたすくらい物忘れがヒドくて憂鬱。(2018年10月号)p.93
日に日にもの忘れが激しくなっていく。(2018年12月号)p.97
もはや、ユウウツという単語すらない。
しかし興味深いことに、2020年2月以降、もの忘れという単語はなくなり、文字数も増えて普通の雑記録になったりします。
世界的な大きな病が、エビスさん個人の病を負的に上回ることで、何かの化学反応があったのでしょうか。
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