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サブカル大蔵経983五来重『先祖供養と墓』(角川ソフィア文庫)

インドの尺度で日本の仏教を測ろうとしても測れないわけです。p.103

 インド原典主義、文献学隆盛の中で、〈はからい〉を越えて、既存の学者や僧侶たちに見えなかった日本の〈仏教〉を掘り起こしていた五来重。

「葬式仏教」は日本人にとって、仏教の単なる誤解ではなく、むしろ正しい誤解であり、正当な実践の一つである。五来はそう考えた。p.271

 巻末の碧海寿広武蔵野大准教授の解説。今の教団近辺で五来の〈解釈〉を評価するのはリスクあるのでは?と思いましたが、ようやく学問的にも、そして文庫化されるように一般的にも評価される画期。

五来がこのように「誤解」の肯定的な価値をあえて論じたのは、仏教学者への対抗心のみが理由ではない。日本仏教の現場で活動する、僧侶たちを激励するためでもあった。p.271

誤解されていた仏教を解いた五来重こそ、誤解されていた。バトンを受けた現在の僧侶が、どうその遺産を活かしていくのか。

五来の先見性は明らかであり、時代が追いついてきたという感じもする。p.272

 本当に時代が追いついたと思いました。民衆の営みに光を当ててきた五来重に光を当てた研究者の方々に敬意を表します。

禅と念仏は非常に密接でした。今は禅と念仏はまるで仇敵のようですが、宗教そのものより宗派が大事だからです。p.177

宗派第一主義を超える一歩になるか。バイアスや縛りを超えたシンボルとなるのか。もう、私たちは五来重を避けて通れない。

原本は、1992年の角川選書。抜き書き部分だけではなく、写真も含めて全体で体感してほしい本です。

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近ごろは新しがりの僧侶がいまして、宗教あるいは仏教と言うものは、死んだ人のためではなくて、生きている人のためにあるということを言いますが、宗教はまず死んだ人のためにあって、二次的に生きた人のためにあります。p.7

意識高い系僧侶に耳が痛い冒頭。生きる人のための教えが、本当に僧侶の本来の営みなのか、相手が求めていることなのか。

死んだとき魂を受け取るのは役所や学校ではなくやはり宗教です。p.8

弔うこと。その共同作業を相手とともに行うこと。その作業の上で、生きる人に繋がるのかも。それを見落とすと、相手の笑顔の裏の呻きに気づかないようなわたし。

学問や宗教には学習なり文化人のレベルの学問や宗教があり、またそうでない底辺の庶民にも学問になり宗教があります。従来は高次元のほうだけを認めて、低次元のほうを嫌ったり認めなかったりしました。本当の宗教であれば、底辺の人々こそ大事にしなければいけません。p.108

インテリの〈学問〉と、民衆の〈迷信〉のはざま。僧侶と檀家の断絶。詰め込んだ知識を振りかざす私。余裕があれば相手の立場に立てるが、突然の問いには、結局一刀両断して逃げてしまう。逃げる仏教。

ですから、葬式は非常に大事な仏教の宗教活動の中止になります。だからこそ、寺も葬式でもっています。葬式をするからこそ檀家は寺を大事にし、寺を建てたりを修理をしたりするわけです。p.108

 檀家さんが求めるのはまず、この一点なのでは。この人に弔ってほしい。その信頼関係。それが求められなくなると、今の寺院は崩壊するのかもしれません。でもまたそこから、新しいお寺の風景、仏教の風景が生まれていくのかもしれません。

この毛坊主たちがいちばんの下部構造で、死者を清めることまでしたと考えられますが、死者を清めてやらなければ浄土に行けません。/そういうところでは伴僧とか役僧を置きます。これがいちばん下級僧で、その人たちに葬式を行わせたという事実もあります。p.149.230

 当時の〈普通の僧侶〉はお葬式をしていなかった。結果的に釈尊の言いつけを守っていたことになるのか?時代の要請から、差別されてきた坊主、モグリの僧侶が、遺体処置や葬送儀礼を引き受けたのか。教団組織が方針としてそれをさせたのか。

浄土真宗は寺がなくて門徒一人一人の家が寺だったので、大きい仏壇を持っていなければならなかったからです。p.255

家が、お寺かぁ。たしかに、真宗らしさはそこなのかも。巨きな仏壇。仏間が本堂。在家の報恩講もなされる理由。今は、仏壇も小さくなり、仏間も無くなりました。それでも、現在の住居環境における新しい仏教空間が育まれていく逞しさを感じます。

日本人の霊魂観をもとにして、神観念ができました。それを仏教化することによって、寺院が葬式をしたり、供養したりするようになりました。p.264

仏教は一番後輩。そういう謙虚さを持たねば、仏教は間違える。水木しげるが初期の鬼太郎で、人間より幽霊族の方が歴史が古いと記していたことを心に植えています。




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永江雅邦
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