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サブカル大蔵経23さいとう・たかを/戸川猪佐武原作『歴史劇画 大宰相』①〜⑥(講談社文庫)

 ①吉田茂の闘争②鳩山一郎の悲運③岸信介の強腕④池田勇人と佐藤栄作の対決⑤田中角栄の革命⑥三木武夫の挑戦、という副題が各巻についていますが、①をのぞいて、見事に内容とまったく一致していません。なぜなら総理より、その周りで蠢く人たちが主人公となっていて、総理の座についた人はもう退陣まで早送りです。

 現在第6巻まで出版中ですが、第1巻が事実上のクライマックスかと。あとは、後日談の趣きです。それくらい敗戦後すぐの混沌とした時代でのアメリカ相手のヒリヒリしたせめぎ合いには迫力があります。外交官吉田茂の首相、運輸次官の佐藤栄作官房長官抜擢、当選一回池田の大蔵大臣就任といった既存の政治家たちではない官僚が国を代表する異常事態。それに反発する党人派と呼ばれる政治家達に対して、吉田茂が手下を官僚から引き抜いてどんどん増やしていった吉田学校が権力闘争へとシフトしていく始まりのようです。田中角栄も党人派ながら吉田系列に入ります。

<第1巻>

解散の理由、何が国民のための行為であるかの判定は総司令部が行う(GHQ)p.104

角栄、麻生太賀吉。いくら麻生が吉田の娘婿でもこんな若造の言うことなどあの吉田が聞くものか。(池田)p.157

誰も知らない間に時代を先に進め新しい事態を作るこれが外交の要諦だ(吉田)p.193

所詮池田も佐藤も官僚だ!小心で、自分中心で!(河野一郎)。p.225

党人は我々官僚派は質も考え方も違う。一緒の旅はできん(佐藤)。p.240

半年前の幣原はどこへ行ったのか。権力と言うものはこれほどまでに人間を変えてしまうのか。(吉田)p.405

 特徴的なのは、権力に無頓着だった人が首相になったらいかに降りないかという権力の魔力感を執拗に描く。幣原、吉田、池田、佐藤…。若い時ハンサムに描かれていた佐藤栄作が作中最も醜悪な顔になることも衝撃。在世時の政策はほぼ触れず、就任までと退陣までの周りの駆け引きと人間関係のみを異様に描く。

2巻の主人公は、党人派の主柱・三木武吉老。破格の扱い。一人だけマンガチックというか顔が違う。YAWARA!に出てきそうな達人感。


日本を昔のドイツのようにしてはいけません。(ダレス)p.79
吉田を倒そうという俺の気迫がくずれる。(三木武吉)p.331
吉田君には何度もだまされているからな…(鳩山一郎)p.480

三木は老体に鞭打ち、義と意地を貫き、静と動を見極め、策を弄して、縦横無尽に鳩山擁立を成し遂げる。

3巻は、河野一郎主人公。ガヤ芸人真っ青の騒々しい人物として描かれるが、憎めない。「いだてん」にも出ていたが、ああいうガサツ感丸出しで空回りしていく。悲哀は感じる。岸信介はまつ毛のみ。

角栄と宏池会が手を結んだ時、保守本流の政治は花開いたのである。p.5
つまり、岸は全く反省してなかったのである。p.7

とりあえず俺が緒方に会う…p.127
僕としては…もう総辞職するより他は無い…ボロ…p.157

4巻.池田と佐藤の悪あがきがひでえ(笑)三木武吉亡き後は、川嶋正二郎が政局をまわす。

午前2時半…川島幹事長から連絡がありましてね…p.70
やりたまえ!いさぎよくて、いいじゃないか!(永田雅一)p.123
彼の見かけによらない度胸を示していた…(福田赳夫)p.220
…わしでさえそうだった…(吉田茂)p.232
河野死後、三木武夫はふと、若い党人田中角栄の顔を思い浮かべた…「あの男なら、あるいは、党人として…」p.275
この盛大さは…俺に、勢威、実力が、あればこそだ!(佐藤)p.352


佐藤・池田、角栄・大平、長年の仲ほど、友情は無い。逆に敵ほど分かり合える。
<官僚派>吉田、岸、池田、佐藤、福田
<党人派>鳩山、三木、河野、田中

5巻.困りっぱなし、笑わない、涙の角栄。逆に新鮮。今みたいに神格化されてない。岸と福田のガラ悪さ。武闘派、鈴木善幸。
保利・椎名コンビ。岸・佐藤首相兄弟、退任後もまだ生きてた。金丸の冷静さとこまめさが目立つ。そして終幕屋・竹下。

やるだけのことはやろうや!(金丸)

6巻。唯一、この巻の三木武夫だけが、総理として、正論と相手の不合理をつく弁舌と人事の妙と有権者の動向を頭に入れながら踏ん張り、福田と大平を子供扱いする。中曽根幹事長が党分裂を防ぐキーマンとして暗躍。


角抜きの大福で三木をおろせるものか。まあ、やってみるがいい…。(椎名)p.217
今、席を立っては、話し合いにならない…僕も言いたいこと言うから、君たちも言いたいことを言ってもらおう。僕に退陣せよ、と言うが、それなら君たち2人も責任を取って、総理・総裁に、なるべきじゃあないよ。(三木)p.265
三木体制が続けば、次には中曽根時代が訪れる、と、福田、大平両派は、警戒しているのだ…。三木体制の崩壊は、俺の敗北でもある。なんとしてもこの難局を解決しなければ!(中曽根)p.301
こうなったら、意地にかけても三木を擁護する。(松野)p.387
やあ!やあ!(角栄)よう!よう!(福田)p.479
竹下は嫡男だ。俺が大政治家に育てあげる責任がある。もう2.3年は苦労させねばいかん。(角栄)p.501

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永江雅邦
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