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サブカル大蔵経439網野善彦『中世的世界とは何だろうか』(朝日文庫)

網野善彦が照らす圧倒的〈中世〉の世界。

〈網野史観〉と槍玉に挙げられた反動も込みで、その渾身の槍撃に身を貫かれたい。

今までいかに〈常識の中世〉にとらわれていたか。

暗黒、停滞、不自由。

その逆。

明るく、激しく、流動的な自由。

物資も身分も芸能も山も海も農業も、全て混沌としていた中の格差。

浮かび上がる後醍醐天皇の存在。

果たして中世的なものは、完全に封じ込められてしまったのでしょうか。

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戦前、東北地方では薬をトウジン、トウジンサマと言っていたところがあり、また岡本綺堂は「唐人飴」と言う小説を書いた。ごく最近まで我々の日常生活に離れがたい存在だった親しみ深い薬売り、飴売りの人々が、その一部にせよ確実に唐人の流れをくんでいたと言うこの事実は、日本列島の社会、文化がその民族の深部において、海を越えた外の世界と結びついていたことを、われわれによく教えてくれる。p.44

 いきなり導かれるアミノワールド。

〈中洲・河原・浜〉これらの場は共同体を超えた、誰のものでもない境界領域、境そのものであり、古くは神々の関わる聖地、あるいは冥界との境とも考えられていた。それ故、そこでは歌垣が行われる一方、白骨累々たる葬送の地として、処刑も行われたのである。p.52

〈誰のものでもない場所〉は、現在ホームレス達が、河原者の後継として、路上の知者として、その空間を居住としています。河川敷をたまに自転車で往くと、橋の下をくぐる時、引き込まれる磁場があります。「私はここに住んでいるのではないか?」そのパラレルな可能性を感じるのです。

寺社の建てられる場そのものが、そうした聖地の性格を持っており、寺社の門前にも同じような特質が備わっていた。日常の世界と異なり、そこでは「高声」をあげることが許されていた。それ故、男女は自由に歌声をあげ、商人は大声で客を呼び、芸能民は死者の霊を鎮める意味を込めて芸能を演じ、一遍は踊躍歓喜の念仏踊りを踊ることができたのである。p.52

 網野語を代表する〈アジール〉の変容。寺社門前は〈声〉の〈アジール〉でした。恐らく都会特有の匿名感が現出した空間。声と話の治外法権。今はネットが門前市。

 思い出すのは、ササキナオ『深夜高速バスに100回乗ってー』に登場する昼間営業のカラオケスナック。あの空間の謎の解放感は、中世的世界にルーツがありました!

女真族の中には海の上での活動に生じた集団もいたらしい。対馬、壱岐、北九州を急襲した刀伊はまさしくそうした人々であった。その余波は北海道にまで及んでいる。この頃サハリンを経由して同等の海岸部に姿を現すオホーツク文化の担い手たちはアジアのバイキングと言われるほど船の操縦に巧みであった。p.56

 日本という国の輪郭線がぼやけてくる。中世は北海道が北の端ではない地理感覚。

南朝を最後まで支えたのは山伏等も含む山の民たちだったと言われている。海民、山民などのの非農業民的武力集団は、後醍醐に組織されつつ農業的な社会秩序に挑戦した、と言うこともできるのかもしれない。そして彼らはこの挑戦に完敗を喫したのである。こうした機会は日本列島においてはもはや二度と訪れる事はなかった。p.98

 後醍醐の乱が〈日本〉を決定づけてしまったと。米が聖域されなくなる現代は、後醍醐的怨念のよみがえりでしょうか。

1183年11月、木曽義仲が後白河法皇の住居を襲った時、法皇側の集めた官兵は、向かへ礫、印地、辻冠者原、乞食法師どもであったと平家物語は語る。これらの人々は検非違使に統轄された天皇法皇の直属武力としてかなりの実力を持っていたと言わなくてはならない。p.116

〈差別された者〉〈まつろわぬ者〉が天皇を陰で支えていた。つぶてに、印字…。忍者のルーツでしょうか。後醍醐は彼らを利用したのか。それとも、もともと天皇という存在は彼らのような人たちに支えられていたシステムなのか。

こうしたあり方は、建武新政期まで続いていた。内裏に出入りした覆面をし、足駄を履き、革の襪をつけた「異形」の人々の中に、非人、河原、印地の人々がいたことはまず間違いない。それは討幕にあたって、後醍醐天皇が文観を通して非人を動員した結果であり、そうした「婆娑羅」な風体をした人々が文観の手の者として新政の武力になったことも確実である。ここでも非人、河原者は天皇に直属する軍事力であった。p.117

 覆面、革、婆娑羅…。この部分だけで小説のネタ一本分になりそう。

 河原者の後継が歌舞伎であり芸人であるならば、芸人がメディアを支配したり、政府を吉本興業が支えるのも伝統なのかも。

私の父はもともと勝丸と言ったが、養子となり網野を苗字として以後、家号を継ぎ善右衛門と改名した。p.200

 ご自身のルーツまで…。

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永江雅邦
本を買って読みます。

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