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サブカル大蔵経46 高橋英利『オウムからの帰還』(草思社文庫)
オウム真理教の事件において、罪に問われた人と問われなかった人の境目がどこだったのかが、いまだにわかりません。ナチスも東京裁判も、死罪とそれ以外の人の理由がよくわからないんですが、オウムに関しては、私も捕まっていたかもしれない、ということを同時代の人は考えたか、ということです。事件前後、宗教界、インド思想学会からのコメントはほとんどなく、学術的に無関係、のコンセンサスが敷かれたような気がしてます。内実はわかりませんが…。本書でもサークル活動的な「在家」から、出家後のサリン、サティアン、破滅へのサイクルが早くなる。オウムは<在家>で終わっていれば、問題なかったのでしょうか?
イカ天に出演したこともある山村君。「俺、出家してたんだ。大学を途中でやめてオウムに出家してたんだけど、二、三か月ぐらいで戻ってきちゃったんだ。修行がつらくてね。情けないけど、あそこの修行並みじゃないんだ。永平寺の修行よりも厳しいんだぜ」p.27
出家・修行という言葉の日常性。強制ではなく、特殊だけれども、その時代の若者の選択肢のひとつに入っている。これはまさにサブカルのひとつか?
自分にそれだけの価値があるとは思えなくなっていたのだ。(中略) 僕にとっては納得できる内容だった。逆に言えば、特に目新しいものではなかった。なるほど、結構まともなこと言ってるじゃないか。p.33、p.44
理で納得したから入った。そして教団の不条理を察知できたから引き返すことができた、という前フリにも思われる。
皮肉なことに、在家信者の方が大乗の心をもっていたと思う。p.63
この指摘は重い。オウムだけでなく、既存の僧侶に大乗的なものはない、と言われている気がする。
実際にオウムに飛び込んでみて驚いたのは、自分と同じような悩みや苦しみを持った人がじつに多く、しかもそうした悩みを包み隠さずに話し合うことのできる人ばかりだった。中略 やっと見つけた。ついに自分の居場所を見いだしたと、僕は思った。p.65-66
車座の話し合いは、どの宗派でも最近大事にしている。著者みたいなタイプが居場所感を感じれたというのは、この時のオウムはすごかったのではと思えた。
井上嘉浩「高橋君。僕がもし踏み絵を踏めと言われたら、踏むよ。いくらでも踏む。ぼんぼん踏む。しかし信仰は捨てない。だからいいよ、高橋君。オウムなんかやめちゃったっていいんだよ。でも、君の信仰心が本物なんだったら、自分自身の修行を淡々と進めていけばいいじゃないか。」p.71
本書での一番の人格者、アーナンダ・井上の言葉。こんな人いたら、俺も入信しても後悔しないレベルの口説き文句。いや、無理に誘わないのは本心だと思わされる。彼がもしオウムの尊師だったら?
この2年近くのブランクのあいだにオウムは急速にその過激さを増していた。p.86
そうだ、オウムは一定ではなかった。波があった。やはり選挙の後変わったか?
出家します。p.100
どの時代でも出家希望者の割合はある。昨今の語学留学やソロキャンプやポツンと一軒家もその流れだと思う。それにしても「出家」というご大層な言葉を発する空間というのは、喜劇に見えるのだが、そうならない時空間があったのも事実だ。明治維新で追いやられた修験道的なものが地脈に流れていてそれが爆発したのか?
オウムではなぜか、移動のときは必ずとんでもないスピードで走らされた。p.112
この辺が妙にリアル。オウムは途中から急いでいたのか。
キリストのイニシエーションは、言ってみればただクスリでラリっているだけのものだった。p.158
サティアンの中の薬物。オウムはレイブの一種か?
「高橋君。科学技術省では数学ができないと出世できないよ。」村井さんはそう言った。p.161
出世という世間ワードが、在家でなく出家システムの中で出てくる。この組み合わせが平時にははまったのか。
麻原さんが風呂から上がって、子どもにバスタオルを巻きながら出てきた姿を見たこともある。p.214
サティアンの中の父長感。
だからね、そういう方は在家でやればいいんだよ。p.265
幹部の言葉。在家は教団を守るための実践、出家は尊師を守るための実践という色分けか。
この令和の時代にはオウム的なものはあるだろうか。たぶんある。ネットとぬくもりが結びついた時、現代にも何かのきっかけでそうなる可能性がある集団もあるかもしれない。
著者は世間を捨てて入信した。しかしそのオウムも捨ててテレビ局に逃げ込んだ。テレビ局が、別なサティアンにも思えた。
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