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サブカル大蔵経263トニ・モリスン/荒このみ訳解説『「他者」の起源』(集英社新書)
大坂なおみ、サニブラウン、八村塁。ネットでは〈ハーフ・アスリート〉と呼ばれてたりしている。肌の黄色い人たちから遠い存在だった肌の黒い人たちの活躍。その距離は縮むのか広がるのか。白人ではないという共通点の黒人と日本人のこれからを考察する一冊。
森本あんりさんの寄稿。
彼女によると「黒人」はアメリカだけに存在する。彼らは「アフリカ系アメリカ人」とも呼ばれるが、アフリカに住むアフリカ人は、それぞれガーナ人であり、ナイジェリア人であり、ケニア人である。p.11
それぞれの国籍を持つアフリカの人は〈黒人〉とは呼ばれないわけだ。
宗主国という共通の「他者」がいなくなると今度は自分たちの内部に新たな「他者」が見えるようになる。インド、パキスタン、バングラデシュ。p.8
運動と革命と内ゲバはなぜついて回る。
「以前はみんなで仲良く暮らしていたのに」という台詞は、しばしばその背後に抑圧され封殺された多くの声があったことを覆い隠して語られる。p.9
この観点で少し立ち止まれるが、この観点だけで押し切ってもいけないかも。
以下はモリスンさんの文章。
曽祖母に言われた「異物が混入」という表現は最初、エキゾチックな響き、望ましいものに感じられた。だが、母親が自分の祖母に強く反論したとき、「異物が混入」とは、まったくの「他者」ではないにしろ、より劣るものを意味しているのだと知った。p.31
異物=劣るものではない。
科学的人種主義の目的の一つは「よそ者」を定義することによって自分自身を定義すること。p.34
科学がもたらした悪事のひとつか。上からもたらされた、他より上の安心。
アフリカ人は南アフリカ人を除いて自分たちをブラックとは呼ばない。p.84
アメリカ言葉なんですね。
自分たちの子供を殺した女性の陳述。子供たちがまた奴隷に戻って徐々に殺されていくよりは、一度に殺して苦しみを終わらせてやりたかった。p.104
日本の中でもこういう子殺しはあったと思われる。何時だったろうか。
オバマの父親は黒人でしたが、アフリカ大陸に生まれ育ったケニア人でした。アメリカ合衆国の元奴隷を先祖に持たないという点で、オバマは一般のアフリカン・アメリカンとは、決定的に違っていたのです。それこそ同じ土俵に立っていないのです。(中略)ミシェルのおかげで、オバマはアメリカの黒人社会にも比較的たやすく受けいられていったのでしょう。p.144
これは知らなかった。
アメリカの黒人社会といえども一枚岩ではありません。p.146
今の選挙戦でトランプを応援する黒人を見た時、この文章を思い出しました。
南北戦争が終結し、奴隷制度が廃止されてから、白人にとってアメリカの黒人が問題になっていきます。それまでは、奴隷として人間とは認めないようにしてきたアメリカの支配者たち。p.149
人間扱いされなかった奴隷。奴隷側の気持ちは本当はどうだったのだろうか。その辺りを現在、山田芳裕が『望郷太郎』で描こうとしています。
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