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サブカル大蔵経26 吉田豪『吉田豪の巨匠ハンター』(毎日新聞出版)
富野由悠季、渡辺宙明、安彦良和ら表紙の面々の破顔一笑だけで即買いの歴史に残る書物。インタビュアーを被ったセラピスト吉田豪が、孤高のレジェンド達に語らせることで、胸底のきつく縛られた紐のもつれを絶妙にほぐしていく。
今回、御大たちはなぜ笑ったのだろう。決してアニメ誌では見せない雰囲気。代表作があるゆえの葛藤。集団作業ゆえの軋轢。プロダクションの動静。そしてアニメというサブカルチャーがさらに一段下に見られていた歴史を背負いながら、手を動かし続けるアニメ界という業。その中で育った人間が、安心して当時を語るという環境を与えられて、解放されていく。松本零士を除いて。
この35年間いつもガンダム以後の話をさせられてきたから考えもしなかったけど、やっぱり『海のトリトン』の存在はすごく大きいですね。(富野由悠季)p.19
宇宙刑事シリーズ。宇宙の警察ですから、これは頑張らないかな、っていう。(渡辺宙明)p.42
ちばてつが生まれて初めてビール飲んだんですよ。ビール飲んで酔っ払って小便しに行ったら気絶しちゃったわけ。それで女中さんが割り箸でつまんで収めたっていう有名な話があるんですけど。(松本零士)p.76
原爆は?って聞いたらニヤッと笑ってたから、おそらくほとんどできていたと思う。(松本零士)p.80
おばあちゃんのお父さんが福沢諭吉なんかと一緒に咸臨丸乗ってアメリカ行って、帰ってきて海軍の主計学校を作った人で。(ささきいさお)p.107
『おろち』は声優はあの頃のピーターでやりたかったんです。(辻真先)p.152
消さなきゃ!リモコンはどこだ!って。えらいものを観てしまった!今のは何だったんだ。なんでこんな時間にアニメやってるんだと。(安彦良和)p.186
いいんですよ、たかが3億って。宮沢賢治をアニメでやるって言ったら、これぐらいのことやらないと意味がないと思って。(杉井キサブロー)
自分がやらなくちゃいけないことをなんとかやってくださいって頼んでやってもらうんです。やってもらったら1番出来がいいし、1番早いです。(丸山正雄)p.234
宮崎駿のあのエプロン私には〇〇〇〇にしか見えないです。旅行者を捕まえてつぶしてソーセージ作っちゃうって、確かああいうエプロンしてたよなと思って。(押井守)p.311
著者が『聞き出す力』で綴っていた、「中学の社会の授業で東映動画を訪れた時アニメーターからストライキや組合の話を聞かされて、アニメファンを辞めた物語」を、当の本人たちに聞いてもらうことで、吉田豪の物語も成仏した感も良かった。
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