サブカル大蔵経160吉田豪『吉田豪のレジェンド漫画列伝』(白夜書房)
聞かれてる方々が本当に嬉しそうなのが吉田豪インタビューの真骨頂。レジェンド漫画家という思いつめない才能の人たちの修羅場。
(バロン吉元)双葉社が…。双葉社の宝物だからよそには出さないって。社長同士が学生時代からのライバルだったらしいんだよ。で、2番手の横溝正史さんの作品を選んだ。p.24
角川映画第一作が、「犬神家の一族」ではなく、『柔侠伝』になりかけていたとは…。まさに「バロン旋風」!!(©︎『アストロ球団』)
(平松伸二に対して吉田豪)藤子不二雄先生を見ててすごく思うんですよ。F先生は実生活がものすごい真面目だったから、その鬱憤を作品の中で晴らすような感じの作風になったけど、A先生はのびのびと実生活を楽しんでるみたいな。p.38
F先生のルサンチマンは相当なものがありそう。リアル魔太郎はF先生でしたか。
(寺沢武一)基本的に好きなのは新日。野上彰さん、いまブラック業界にハマって、ジムのトレーナーやらされてるよ(笑)(吉田豪)そういえばジョージ高野さんが突然コブラを名乗ったときはどう思ってたんですか?(寺沢)ムッとしたね。p.55
野上にジョージ高野。寺沢武一先生と新日レスラーの接点が渋すぎます。
手塚治虫先生はお金を110円以上持ったことなかったから自動販売機の使い方がわからなかった。p.64
寺沢武一の手塚治虫アシスタント時代の語り、微笑ましい…。ちなみに旭川東高という私の母校の卒業生が寺沢武一・藤田和日郎・佐々木倫子さんなのですが、その御三方そろい踏みのイラストポスター見たいと願っています。
(ちばてつや)運動不足だった。気がついてすぐ、野球やろうと松本さんに電話して、宮原さんにも、手塚治虫さんとか、いろんな人に電話して。p.80
ちば伝説。神様にも野球勧誘電話…!!
(えびはら武司)もう藤子不二雄は古いみたいに言われ続けて、結局学年誌でしか連載もらえない人みたいなイメージがあって、あのころ学年誌の連載だけじゃ漫画家じゃないみたいな時代だったんで。安孫子先生はサンデー・マガジンとかやるようになってましたからね。(中略)不思議なもんで、何をやってもうまくいかないときはうまくいかないんだって言ってました。でもなんで世間は評価してくれないのかなみたいなことぶつぶつ言ってましたね。ちょうど「ドラえもん」もうやめようかって時でした。(吉田豪)単行本が出るまで「ドラえもん」ってそこまで評価されてなかったわけですよね。(えびはら)評価されてなかったですね。当時ドラえもんのコミックスが出るわけないと思って、同じアイテムでも違う名前で出したり。日テレ版アニメは学年誌でしか連載してない時期でしたね。そしたら周りに1人2人面白いって言う人が増えて、それがたまたまテレビ局の人や小学館の人だったり、力がちょっとある人だったから、これをなんとか本にしようってなって、そういう人がいたおかげで「ドラえもん」がどんどん大きくなったんでしょうね。(えびはら武司)p.140
連載中も評価されていなかったという「ドラえもん秘話」の決定版な挿話。まさか単行本が出る予定もなかったとは。考えたら学年誌の連載…たしかに…。
「同じアイテムでも違う名前」…、おそらく「ヘリトンボ」のことを指してるんですよね。えびはら先生はもはや小学館タブーなところを語る貴重な語り部ですが、いろいろスリリング。
(吉田豪)えびはら先生がジャイアンの本名の由来になったっていうの本当なんですか?(えびはら)先生から聞いたことないけどそれしかないだろって感じ、時期的に。最初ジャイアンって、本名がなかったの。要するに本名つけちゃうと、本名の子がイジメられたらかわいそうだから。だけどなんて名前って皆聞いてくるから剛って名前にして、アシスタントからとったみたいにした、そう聞いたら、藤本先生笑ってました。公式設定は大体、片倉さんとしのだ英雄さんが昔の特集ページを担当して、まさか公式設定なると思わなかったから、片倉さんもしのださんも責任を感じてましたね。ちゃんと考えておけばよかったね。裸というか、身体担当は片倉さんなんですよ。(えびはら武司)p.144
片倉陽二先生の描くしずかはエロかったです。しのだひでお先生のドラはこれじゃない度が高かったけど暖かみがありました。この両雄が図鑑や百科を支えていたのですね。ある意味私の世代は単行本より百科でオタク心が鍛えられたと思います。
(日野日出志)長井勝一さんが、「日野くん、ウチでやるのはいいんだけど、あっちも考えてね」って、小学館と集英社の方向を指差して。p.157
本書では、日野日出志の語りに一番常識を感じたのには驚きました。そして相当な環境に暮らし、尋常じゃない執念と時間を費やしたからこそ、あの丸い絵であそこまで怖い作品を描けたのかと認識しました。浮世絵・伊藤若冲に続く外国人が評価して再発見されるパターンだと思いました。
(のむらしんぼ)よしりん、車田、キャプ翼パクリ。抗議のファンレター殺到。お前は漫画界の削りカスだ!p.183
この巻で一番腰が低く一番たちの悪そうな作家のしんぼ先生に一番漫画家的な説得力を感じました。轟け一番!世代です。
(谷村ひとし)ああ、漫画で描いた印税なんて目じゃないですから!(中略)格闘技だってパチンコありきだったし。ホントそうですよ!パチンコバブルがあったからこそ、ものすごいファイトマネーで外人選手呼べて。アニメも、声優さんのギャラも半端なく上がったし。初代はギャラが出ないから、加持リョウジ役の山寺さん、声出してないんですよ。p.212
谷村ひとしの画業を格闘漫画時代からフォローしてきた吉田豪の慧眼。谷村御大からパチンコと格闘技・アニメの接点が説かれる。ただ吉田豪に一番〈構えていた〉のも谷村ひとし先生だったような気がする。
(弘兼憲史)ちばあきおさんも、なくなる1週間ぐらい前に銀座で一緒に飲んでて落語の良いコレクションがあるから聴きにおいでよって、その時は明るかったんですけど、たぶん躁鬱だったんだよね。(中略)(吉田豪)単純に企業の偉い人とか政治家とか仲がいいから、いけすかないんでしょうか。まぁそれはあるでしょうね。やっぱり政財界の人間と普通に付き合ってる漫画家って偉そうに見えるじゃないですか。(吉田豪)怒るのは無駄ですよね。(弘兼憲史)無駄ですよ。p.232
漫画好きから敬遠される弘兼憲史その人を救い上げる吉田豪イズム。話してみれば…、無駄に嫌う必要はない。〈無駄ですよ…〉で終わる二人の会話。
「ジャンプ」は北斗の拳が終わってから1回もオファーが来てないです。嫌われたんでしょうね。(中略 )女の子はよくわかんないと思う。俺の漫画全部ホモ漫画だもんね。(武論尊)p.243
漫画史最大の謎、武論尊先生。平松伸二自伝漫画やこのインタビューでもあるように本宮ひろし先生の周辺的存在から原作者となり…、それが北斗を生んだ…。今の漫画界に一番縁遠く、必要な方なのかも。