人気サイト「GIGAZINE」運営者の仕事術
酒は飲まない、たばこは吸わない、休日に誰かと遊びに出かけることもない。ずーっとパソコンに張り付きっぱなしでも、それを苦とも思わない。珍しく外に出たと思ったら自分の記事で紹介したおやつや飲み物の買い出し…。そんなクレイジーな人物(写真…顔は非公開)が率いるGIGAZINE(ギガジン)は、インターネットの人気ニュースサイトです。
GIGAZINEを運営するのは山崎恵人さん
このニュースサイトの歴史は古く、2000年4月の開始です。
名称のGIGAZINEとは、オンラインマガジンとしてギガバイト級のサイトという意味で、ギガバイト級のGIGAと雑誌のMAGAZINEを組み合わせたものです。
サイト運営者の山崎恵人(やまざきけいと)さんは、関西学院大学経済学部在学時にGIGAZINE を立ち上げる一方、ソフトバンクやライブドアのコンピュータ雑誌の編集に携わった後、家業の事業を継いでからGIGAZINEの運営に注力することになります。
GIGAZINEの特徴は、IT系だけにとどまらずインスタント食品やコーラなどの飲料などのカジュアルな話題も扱うところです。記事はあまり深掘りせず、短くまとめるようにしました。
個人サイトとして誕生したGIGAZINEですが、すでに商業メディアになりつつあります。山崎さんは営業に集中し、山崎さんがいなくてもGIGAZINEが更新できるよう、コラボレーション可能な組織作りを行っているのです。
GIGAZINE編集室はお菓子食べ放題
GIGAZINEで扱うのはけして高価なものではなく、むしろジャンクフードに類するものです。「アルコール飲料を扱わないかわりに、気軽に飲める清涼飲料や、インスタント食品、お菓子などを扱います」と山崎さん。
記事を書くため、山のように試食します。近所のコンビニもGIGAZINE編集部の要望で新製品をどこよりも早く入荷するようになったほどです。そのため、GIGAZINE編集部ではお菓子食べ放題です。「でも、食べたら記事を書くのがルールですので、スタッフ同士でどうぞ、どうぞ、と押し付けあっていますよ」
食品や飲料系の記事は人気も高いため、最近は比較的頻繁に掲載されるようになりましたが、スタッフたちは昼食以外はお菓子の食生活を強いられています。「みんなで『死ぬー、死ぬー、このままじゃやばい』などと文句を言いながら記事を書いています」。
乱れがちな食生活だからか、昼食は自然食が多くなったそうです。
なお、お気に入りのカバンは、「PORTER×Excite ism オリジナルPCバッグ」(写真)。
GIGAZINEでも製作秘話をリポートしたそうです。
どんなパソコンで仕事を?→弘法PCを選ばず
「弘法筆を選ばず…」
山崎さんが仕事をする上で意識していることです。
例えばWindowsのショートカット(図は一例)を覚えると、他人のPCでも特にカスタマイズしなくても思い通りに利用できます。
「弘法筆を選ばず」ならぬ「PCを選ばず」というわけです。
「2ちゃんねるのショートカットキー関連のスレッドを教えられてのぞいたときも、知らないショートカットキーはありませんでした。もともとPDAユーザーだったので、ショートカットを知らないと仕事になりませんでしたので、Windowsでもショートカットをほとんど覚えてしまったのです」
気になったことはとことん試す性分で、特にファイル整理ツールは使い込んだそうです。
仕事術は?→基本的に「ない」
「仕事術は基本的にはありません。また、持つ気もありません」
理由は、「そういうことばかりに血道を上げていた身の回りにいる人物が、その割には全く効果があるように見えなかったため」だといいます。また、スタイルを固めると応用が利かなくなり、視野が狭くなるためだそうです。
「どうしても専門化するのが普通です。ニュースサイトであろうが知識であろうが趣味であろうが。そういう専門性を排除し、それらすべてを横断的に見渡すことのできる視野が今の日本人には必要だと考えています。あるジャンルには詳しくても、違うジャンルについては全くの素人では、発想が貧困になります。また、違う側面からモノを見る癖をつけないと我田引水になってしまいます。時々に応じてスタイルは変えてみるのがいい。正解なんてないです。だから、自分にあった仕事術を探すのではなく、あらゆる仕事術を試してみるのが、きっとベストではないがベターだと考えます」
そのスタイルはニュースのチョイスにも反映されています。
「あなたの知っていることは誰かにとっては知らないことであり、あなたが知らないことは誰かが知っているわけです。また、自分が知っているから誰もが知っているわけではない。GIGAZINEは誰もが知っていることであっても、知らない人がきっといるという前提で更新されています。そのため、情報に精通している人から見れば既出の内容とか、なぜ今頃この話題なんだ?というようなものが多いはずです。ですが、世の中の大部分の人はいつも最先端の情報ばかり追っかけているわけではない。だからあまり専門化せず、話題を幅広く取っています」
すぐに忘れること
昔から忘れ物はクラスで1位だったそうです。
連絡帳に明日の持ち物を書いても、家に戻ると連絡帳を見るのを忘れます。
高校の頃には手帳を持ち歩いてあらゆることを書きまくったのでかなりミスは減りましたが、今度は書く面積が足りなくなります。
大学受験で浪人したのをきっかけにモバイルギア2(小型ノートパソコン)を使うようになり、記録できる情報量が飛躍的にアップします。大学の中盤まではそれを活用し、後半はレッツノート(ノートパソコン)に乗り換え。今はノートパソコンが代わりにあらゆる事を覚えています。
「いつもノートパソコンに向かっているからできることですね。携帯電話は電話以外には使わないです。また、電話がかかってきても出ません。というかずっとカバンに入れっぱなしで音も消しているので気づかないだけなのですが…。携帯電話はこっちからかけるだけです。情けない話ですが、一時期、仕事のメールや電話が延々と来続けるので、それが気になって集中できなくなり、メール恐怖症になりました。メールが来たかな、また来たかな、と、1分ごとに受信し続けたわけです。ほとんど強迫神経症寸前でしたね。でもこれだとやってられないと思い、やめたわけです。忘れないことに邁進していたのに今度は忘れることに邁進したわけです。だから、電話やメールで密に連絡を取るとかは今もできない。人とのつながりや連絡方法は最低限でいいと考えます。つまり、つながりも何もかも一時的でいいから完全に忘れること。仕事が終わったらとりあえず全部忘れます。ストレスがかからなくて良いですから。だから、完全にネットから切り離されることがかなり多いです。携帯電話は持たないし、ノートパソコンは部屋に置きっぱなし、完全にオフライン状態になります」
予定は立てない
「スケジュール帳にびっしりと整理して、ものすごく完璧に埋めていく人に限って、その予定を消化できていない」と山崎さんは話します。それどころか、予定が詰まっているのが目に見えて分かるから余計に焦る。だから予定は最低限、決まっているもの以外は無視するのだといいます。
「出張するときも行きの切符は買いますが、帰りの切符はもう買いません。そろそろ帰るか~と思ったらノートパソコン開いてネットにつないで、サイトから予約を入れる。それで無理だったら自腹を割いてどこかに泊まり、翌日の朝一で帰ればいいだけです。これはさすがに普通の職場では無理ですね。こういう適当なスケジュール管理ができるのは、自分自身が自分の会社の社長だからでしょう。社員の皆さんにはいつも大変な迷惑ばかりをかけて尻ぬぐいばかりさせていますが…」
できるだけあらゆるものをなくすこと
「転職や引っ越しを何度も経験しているので、身の回りの持ち物は極限まで減らすことにしています」
お気に入りのモノは作らず、どんなものでも使えるように心がけているそうです。例えば、このペンでないとダメとか、そういうのはできるだけなくしていき、必要な道具があればその場で創意工夫して何とかするのです。「これはソフトバンク時代に仕事の締め切り直前にパソコンのハードディスクやマザーボードが全部ぶっとんだ経験からですね。バックアップしているから1日前のデータに戻すことができても、使い慣れたマシンが手元にないわけです。そのときの教訓から、日常的なバックアップも大切ですが、そのバックアップも何もかも全部失ってもなお失わない自分の頭と腕で、そのときその場所ですぐ仕事を再開できることが大事だと考えるようになりました」
1日に最低でも1つずつ処理していくこと
なんでも先延ばしにする代わりに、1日1個ずつ処理していくそうです。「仕事というより、あらゆる用事についてなのですが、なんでも1個だけです。一度にたくさんのことをしようとすると、抜け落ちやすくなるもので」
1個だけでも完遂しておくととりあえず1歩前に進むので、いつか終わるのだと言います。
「会社の社長になった当初、あれもこれもやろうとして結局、半年以上、一歩も前に進まなかったわけです。それを見かねた母親が、一日1個ずつにしなさい、その代わり絶対に1個だけは必ず処理していきなさい、とアドバイスしてくれたわけです。最初はそんなことを言われてもやることはたくさんあるのに何を言っているんだ、分かってないな~と思っていたのですが、分かっていなかったのは私の方でした、ごめんなさい」
あらゆることが行き詰まり、気力・体力ともに限界に達し、どうしようもなくなって、1個ずつしか処理できなくなった。だがその途端に少しずつ前に進み始めたのだといいます。
「とりあえず100才まで生きる予定なので、まだまだたくさんできますね」
置く場所を作らない
GIGAZINEを更新しているオフィス環境にも気を配ります。
床の上にはものを置きません。置くとそこを起点にドンドン物が置かれ、置かれると奥のものには手が届かず、すると奥にある有用なものがゴミと同じ存在に成り下がるからです(写真参照)。
また、積み上げると下のものは取り出せないから積み上げません。机の上に置くしかない場合は、帰る前に整理して水平垂直に保ちます。同様に、関係ないものはとにかく捨てます。ペーパーレスは無理なんです。
「だから捨てるわけです。これあとで使うかも?という場合は捨てる。確実に使う理由が明確でない限りはとにかく捨てます。そして逆の発想、捨てるものを作らない。これらは単なる心構えなので完璧にはできませんが、意識しているだけで随分違います」「いい仕事はいい環境からだと信じています。今後、GIGAZINEを大きくしていくにあたって今後1年以内に人材を広く募集する予定です。職種は多岐にわたります。最大の特徴は年齢を問わないことです。亀の甲より年の功とはすなわち経験の差です。誰よりも業界に精通し、豊富な経験を持っているが、定年退職せざるを得ない方も迎えたいと思っています。逆に若い方も大歓迎。必要なのは自助努力する才能ですから」
デスクトップに「temp」フォルダをつくり、とにかくそこに入れる
思いついたらとりあえずテキストファイルにしてしまう。そして、ダウンロードしたファイルなどといっしょに、なんでもデスクトップの「tempフォルダ」(とりあえずのフォルダ)に入れる。デスクトップは常にすっきり。そして定期的にこのフォルダをまるごとバックアップして、移動させます。「人間は基本的に時系列で物事を覚えているという整理術があったでしょう?あれの手抜き版です。パソコンのいいところは自動的に作成した日付や更新した日付がファイル付くところ。パソコンの内蔵時計さえ正しければきっちりと日時を記録してくれますし、日時順に並び替えるのも簡単ですよね。すぐに予定とかは忘れるくせに、あのときに確かあんなこと書いたよな~とか、そういうことはぼんやり覚えているわけです。また、忘れていてもそのフォルダを開いてざっとファイル名を見ることで記憶がよみがえることもあります。忘れないようにしようと言うより、思い出せるようにしようといった感じでしょうか」
以前にファイル分類関連の記事をいつも書いていただけのことはあり、tempフォルダ以外のファイルはすべて細かく分類され、整理されています。
「リアルでは散らかし放題だし、だらしないのですが、パソコンの中であればソフトウェアさえ使えば後は自動的にやってくれます。怠け者ほどちょっとした便利な作業を効率化して全自動化するスクリプトなどを書くのが上手になると言いますが、あれと同じ理屈です。あと、パソコンの中は拭き掃除とかワックスがけとか必要ないですからね、ラクチンです」
スケジュール管理は壁掛けカレンダーに書き込んで行う
パソコンのプログラムなども考えましたが、ログインが面倒でやめました。
最低限の予定だけをカレンダーに書いておく方が簡単だといいます。
終わったら線を引いて消す。意外にアナログですね
「これは今年に入ってから導入したわけですが、非常に簡単で見通しもよく、わかりやすい。書く面積が限られているのでパッと見てすぐに分かるタイトルだけにする癖が付きます。簡単なタイトルに集約するのは、訓練によって可能となる技術です。ですから、タイトルへのうまい集約の仕方、概要へのまとめ方は記事作成の訓練みたいなものです。
あと、GIGAZINEには新しく発売される食品や飲料などのレビューが頻繁に掲載されますが、あの管理も壁掛けカレンダーで行っています。朝出勤してから、オフィスの壁にあるカレンダーを見て、あ~今日はアレの発売日か、じゃ、買いに行ってね~、となるわけです。おかげで社員はこのカレンダーを見る度に泣いています」
理想的な会社へ
山崎さんの考える理想の会社とは、一体どのようなモノなのでしょうか。
「ひとことでいえば、ストレスのかからない会社です。だから会社のオフィスでは基本的に仕事さえきちんとこなせば、何をしても良いということにしています。ネットオークションだろうが、ネットショッピングだろうが、掲示板への書き込みだろうが、メッセンジャーでチャットだろうが、BGMにアニソンやゲームのサントラを流していようが、一切禁止していません。逆に、そういったことをしながら仕事もできるマルチタスクな人間でないとだめだと思います。私はそういったことのできないシングルタスクな人間なので、余計にそう思いますね。また、会社の理想型としては、うまいたとえが思いつかないので恐縮ですが、攻殻機動隊に出てくる『公安9課』のようなプロフェッショナル集団でありつつも、HUNTER×HUNTERに出てくる『幻影旅団』(クモ)のように、誰かが欠けたからといって倒れることのない組織が最適だと考えています」
GIGAZINEは今後、どうなるのか
「今後はGIGAZINEを『ニュースサイト』にすることが仕事です。海外ではよく有名ブログがそのまま商業化という例が多くありますが、日本でここまでやるという例はあまり聞いたことがありません。今までの既存ニュースサイトとは違ったブランドを持ったニュースサイトとして成長していく予定です。これによって今までの個人ニュースサイトレベルでは無理だった取材やレビュー、レポート、インタビューなども増やし、より質のいい記事を作成して読者に還元していく予定です」
さて、このような山崎さんのラフでマイペースな仕事術が、あなたのライフスタイルの参考になれば幸いです。