「見せる収納」を英国の暮らしから学ぶ その②
収納を「家事(現状維持)」から「趣味(暮らしを彩る生きがい)」に
モノが目につかないようにしまい込む作業は毎日の「家事」であり、ストレスの原因にもなりかねません。いっぽう、たくさんのモノを「センスよく使い勝手よく収納」できれば、暮らしが華やぎ、楽しい空間が生まれます。こうなればその作業はもはや「趣味」といえるものです。
隠す収納にこだわる日本人に対してイギリス人は、見せて(showing)飾って(decoration)モノを美しく収納しようとします。
前回に続き、19歳の時にイギリスを旅行してその美しさに魅了され、以来100回を越える渡英経験を持つ井形慶子さん(『古くて豊かなイギリスの家・便利で貧しい日本の家』等 著書多数)から、イギリス流の収納の知恵を学びます。
第3章 箱と既製家具でスッキリ見せる
大小さまざまな籐の箱、バスケットをそろえる楽しみ
イギリスの収納で家具に籐(ラタン)製のバスケットを組み合わせるコーディネイトは人気があります。
籐は、ヤシ科のつる性植物で、インドネシア、フィリピンなどの熱帯・亜熱帯地域の密林に繁殖しています。この籐製品をイギリス人が好むのは、風通しがよく衣類の保管に向いているうえ、持ち運びにとても軽いからです。
日本では千年も昔から、籐は弓や太刀など武具の材料として愛用されてきました。
この籐が家具として使われたのは明治以降だったのですが、一般の人々の生活に根づくのは1970年代に入ってからといわれています。
さて、鍵や時計や文具など、家の中には個人が使う細かいモノが数多く転がっていますが、これらは大きな引き出しではなかなか整理がつきません。
そこでたんすの下に、箱型バスケットを突っ込んで、そこを個人のスペースにするのです。
子ども部屋のベッド下も、
シーツや洋服やおもちゃをしまうためにバスケットが大活躍します。
このように、既製家具は何かを加えることで使い勝手がよくなるのです。
バスケットを買う時にはサイズ違いのモノを何種類も求め、ロシアンドール(マトリョーシカ)のように大きなバスケットの中に小さなバスケットを重ねて入れ、使わない時は一つにまとめて収納しておきます。ゲストが泊まりにきた時には、バスケットの箱を一つ寝室に運んでおくだけで、客用の収納庫にもなるから便利です。
このアイデアはイギリスで人気のネストオブテーブルという三つに重ねる入れ子式サイドテーブルにもあらわれています。使わない時は三つ重ねてコンパクトに収納し、パーティーなどで人が集まった時には、リビングのソファーや一人がけチェアの前に小さな机をサイドテーブルとして単体で置きます。
このネストオブテーブルと、サイズが違う入れ子式バスケットをそろえるアイデアは、ともにロシアンドールスタイルと呼ばれ、スペースが節約できると好評です。大きいバスケットの上に小さいバスケットを積み上げると、見た目にもとてもおしゃれで、インテリアとしても効果的です。
上にいくほどサイズの小さいモノを積んでいくと、重量は軽く、動かしやすくなります。
逆に、同じサイズのバスケットを積み上げていくと安定感やバランスが悪くなります。
このように、積んでもバラしてもいかようにも利用できるフレキシビリティーが収納家具には欠かせない要素なのです。
衣服や靴も軽量化が進む今、籐の利点を生かしたバスケット人気はますます進むでしょう。
大量生産の既製家具は、セットで使ってリッチ感を出す
イギリス人はチェスト、ベッド、サイドテーブルなど家具を買う場合、セットで購入する傾向があります。
そのほうが激安店のディスカウント率も高いからです。
たいていの既製家具はパーツが箱に入っていて、自宅で組み立てる方式です。買った家具をカートで駐車場まで運び、自家用車に積み込んで持ち帰ります。
イギリス人がセダンではなくワゴン車を好むのは、購入した家具を即、自分で運搬できるメリットがあるからです。
ところで、イギリスで新婚カップルが家具を買う場合、妻の親が披露宴の費用を払い、夫の親が寝室に置くユニット家具を買うという習わしがありました。
ベッド、女性のための大きなクローゼット、男性のための小さなクローゼット、鏡台、チェスト・オブ・ドローズ、これらが一般的寝室のユニット家具と呼ばれるものです。
ベッドルームやキッチンにこのようなユニット家具が置かれているのは、イギリス人がよりリッチなイメージをかもし出せるセットシステムを好むからだといわれています。
イギリスではアンティークなど良質の家具と質の悪い家具との差が激しくあります。
ただし、安い家具といえどもほとんどが天然木。本当にほしい家具が買えるような経済状況になるまで、お金をかけず部屋作りが楽しめるわけです。
このような家具の買い方は、イギリス人の住宅購入にも通じます。人々はワンルームの部屋を皮切りに、少しずつ大きい家へと売買を繰り返し、最終的に理想の家を手に入れます。
家具に関しても同じようにステップアップを繰り返します。
もちろん両親たちから受け継いだ、とっておきの家具を若い人たちは少なからず持っています。
しかしながら、イギリスの賃貸住宅には日本の押し入れにあたる大きい作りつけの収納はなく、収納スペースが足りない場合は家具で補うしかありません。だからこそ、このような安い家具の需要は減ることがないのでしょう。
客用布団は本当に必要?
イギリスでは、電車に乗り遅れたりパーティーで飲みすぎて帰れなくなった人など、親しいゲストには毛布と枕を渡してソファーで休んでもらいます。
だからマットレスも敷き布団もいらないのです。
部屋数の少ないイギリスの小さな住居のリビングでは、ベッドにもなるソファー(ソファーベッド)を置き、ここをゲストルーム代わりとします。
また、親を招く場合は、主寝室に両親を眠らせ、住人はソファーや床にスリーピングバッグで寝ます。
時には子どもたちが祖父母にベッドをゆずり、親のベッドでともに寝るケースもあります。自室を差し出すこんな習慣は、イギリスの一般住宅が15坪前後と小さく、ゲストルームを持てないことへの対策なのです。こんなことから、イギリスの家では、ゲストのために何組も客用寝具セットを用意しないのです。
もう一つ、イギリスの住宅では、冬はセントラルヒーティングが効いているので、特別に厚いかけ布団は不要です。枕とシーツ、軽い毛布があれば十分なのです。
日本の押し入れに詰め込まれた客用布団。これこそスペースのムダであり、いつ泊まりにくるかもしれないゲストのために、これだけの収納スペースを割くことは無駄ではないでしょうか。
自分たちのベッドを客に提供すれば、大きな押し入れはいらないかもしれません。
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