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ちまき【シロクマ文芸部】

子供の日には、「ちまき」を送るけんね、
ヒロ君に食べさせてやってね。

鹿児島に住む義母から、そんな電話をもらって、笑子は楽しみにしていた。
ヒロ君、ばあちゃんが、ちまき送ってくれるって!楽しみだね♪

笑子は今まで、子供の日といえば柏餅だと思っていたので、「せいくらべ」の歌で
「ちまき食べ食べ兄さんが〜」
と歌う「ちまき」というものを、食べたことがなかった。

ところが、義母から届いたちまきは、笑子がイメージしていたものとは大きくかけ離れていた。

笑子は中華ちまきや、笹団子のようなちまきを想像していた。
しかし届いたのは、見た目も大きさも、ちょっと高級な、笹の葉で包まれた一本分の鯖寿司のように、茶色い笹の葉に巻かれて、2箇所をシュロの葉の紐で結んで留めたものだった。

え!これ何?

笑子は義母にお礼の電話を入れつつ、
これって、鹿児島のちまきなんですか?
と聞いた。

すると義母は言った。

鹿児島の「ちまき」は「あくまき」なんよ。

あくまき?
悪魔鬼?

「あくまき」は、「灰汁巻き」と書くんよ。

灰汁につけたモチ米を孟宗竹の皮に包み、灰汁で長く煮て作るんだよ。

え?さすが鹿児島!
火山灰で煮るんですか?

まさか‼️
木灰を水で濾して作ったのが、灰汁。
どの木炭で作るかによって、微妙に違うらしいんだけど…

兄さん方で、毎年庭で大きなドラム缶に灰汁を入れて、たくさんの「あくまき」を作って、みんなに配るのよ。
それ多めにもらってきたから。

笑子は、感謝しつつ「灰に浸けた餅米」を食べるの?
と少し不安に思いながら、竹の皮を剥いた。

すると中には、黄色っぽい餅状になった大きな塊が入っていた。
なんともいえぬ独特の香りがするが、不快ではない。
むしろ、美味しそうだ。

包丁で切ろうとしたが、くっついてしまって切れない。

そういえば、糸で切るって言ってた…

でも、糸がない。

糸がない時は、結んでいるしゅろの葉や、包んである竹の皮を細く割いて使えばいいよ、
義母が言っていたのを思い出した。

なるほど。
笑子は竹の皮の端を細く割いて、端の方からあくまきの下に通すと、その糸をクロスさせて引っ張った。

すると、あくまきは、一口大に綺麗に切れた。

義母が一緒にきな粉と黒糖の粉を入れてくれたので、きな粉と黒糖を混ぜたものをつけて食べてみたい。

美味しい!

餅米なのに、餅というよりわらび餅に似た感じで、柔らかい。

ヒロ君も、満足気に食べている。
夫は、
おお、懐かしいな、
と、嬉しそうに食べていた。

暑い鹿児島では、食べ物が痛みやすいので、こうして竹で包み、アクで煮ることで、兵食や携帯食にしていたらしい。

その義母は今はなくなり、あくまきを送ってもらうこともなくなった。

ふと思い出し食べたくなったけれど、この辺りには当然売っていないし、竹の皮も、灰汁を作る灰もない。

それなら、わらび餅でも作るかな?
学生時代、わらび餅を作っていたことを思い出し、お店で、わらび餅粉を探したが、どこのスーパーでも見つからない。

この辺りの人は、わらび餅作る人いないのかな?

子供の日か…

笑子は、今や自分が、ヒロ君夫婦とその子供に、送ってあげる番なんだよな。
と呟いた。

でも、竹の皮も、柏の葉っぱもない。

そういえば、昨年採って冷凍していたヨモギがあったわ!
団子の粉もあるし、
草団子でも作ろう!

笑子は、エプロンをかけると、冷凍庫のヨモギを取り出した。

終わり

これは、シロクマ文芸部さんの、
「子供の日から始まるお話を書いてみよう」という企画に参加したものです。

創作です。

「あくまき」をみたことがない人が多いと思いますが、写真がなかったので、もしどんなものかな?と思ったら、ググってみてくださいね。

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