
ハルカ 3
前回の投稿から少し時間が空いてしまったので、
1と2の記事を貼っておきます。
不要の方は、その下の本文に行ってください。
ハルカのアパートは、歩いて20分くらいのところだった。
玄関まで送って帰ろうとすると、
冷たいお茶でも飲んでく?
と、ハルカが言う。
そんな…
女の子一人暮らしの部屋に入ってもいいの?
ショウタならいいよ。
僕はおそらく、男とは思われていないんだろうな。
ハルカの中ではいつまでも僕は、小学校1〜2年生な男の子なのか…
複雑な気持ちで、ハルカの部屋に上がった。
ハルカの部屋は、あまりにも物が少なくて、殺風景な部屋だった。
もう大丈夫?
うん、時々なるんだ…
男の人の大きな声が苦手で…
僕はふと、8年前ハルカが突然いなくなった時のことを思い出した。
ハルカの父と名乗る男が、
ハルカを出せ!
と学校に怒鳴り込んできたという噂。
当時ハルカとお母さんは、お父さんから逃げて、ここにきたという噂。
ハルカはもしかしたら、男の人の大きな声で、怖かったお父さんを思い出してしまうのかもしれない…
僕はそのことを聞いていいのか分からず、俯いて黙ってしまった。
ハルカは明るく
大丈夫、大丈夫、と笑った。
僕にはそんなハルカが無理してるように感じた。
ハルカ、無理してない?
無理に明るくしようとしてない?
ハルカは、嬉しいような悲しいような、複雑な顔で少し笑った。
やっぱりショウタには、わかっちゃうのかな、
私さ、ショウタといる時が一番楽だな。
それからハルカは、話し出した。
お母さんは、いつも私に笑っていて欲しかったみたいで、笑ってないと心配するの。
だから、お母さんに心配かけないように、いつも笑ってなきゃいけないって、頑張らないといけなかった。
それに、転校先でいじめられたりしてから、周りの人が何考えてるのか、気になって、怖くて仕方なくて、明るいふりして無理してみんなに合わせて、元気で明るい子を演じてきたの。
だけどそれって、とっても疲れるの。
そんな私を見て、明るくて元気な子、って言われるのが本当は嫌なんだ。
私はそんなに明るく元気な子じゃない。
本当の私は、ネクラで、自分のことが大嫌いで、一人になると、すごく落ち込んだり、悪いことばかり考えちゃうの。
人のことも信じられない
小学校の時、ショウタと過ごした時間だけが、楽しく幸せな思い出で、その後どこに行っても、本当につまらない日々だった。
ショウタはすぐに私のことを忘れてしまうだろうと思ったけど、私は忘れられなくて、ショウタにも忘れてほしくなくて、毎年ハガキを出したんだ。
それでも、忘れていてもおかしくなかったから、ハガキ見て、電話くれた時はホントに嬉しかったよー。
8年ぶりにあっても、ショウタは全然変わらない、優しいショウタだったし、ショウタといる時は、無理に笑おうと思わなくても自然に笑顔になれた。
家に帰っても、今日も楽しかったな、って思い出せて、元気でいられた。
そしてそんな自分が好きになれそうだった。
でも、最近ショウタ、しゃべってくれなかったじゃん。
堀田先輩と付き合ったこと、怒ってるのかな、と思ったら悲しくなって…
ごめん、
喋りたくなかったわけじゃなかったんだ…
でも、なんで堀田先輩と付き合ったの?
僕は初めて、口を挟んだ。
周りの彼氏がいる女の子たちが、楽しそうだったから、男の人と付き合うってどういうことかな?と思って…
他の男の人とも、ショウタと話すみたいに、話せるようになるのかな?なんて思ったけど、無理だったの。
先輩は、本当はネクラの私を知らないから、私のこと明るく元気な子って思ってる。
無理してはしゃいでないと、怒ってる?とか
なんで不機嫌なの?とか言われるし…
ハルカは、しばらく黙ってから、ポツリと言った。
それにやっぱり男の人が苦手みたいで…
その後に、ハルカが飲み込んだ言葉が気になったけど、それよりもショウタは、愕然とした。
ボクは男じゃないのか⁈
そんな僕の気持ちには全く気付く様子もなく、ハルカは続けた。
男の人の声は、やっぱり怖いし、大きな声出されると、身体が震えたり、さっきみたいに過呼吸になっちゃうの。
こんな暗い、つまらない女が、男の人と付き合っちゃ、いけなかったんだよな…
ボクは言った。
ハルカはネクラでもつまらない子でもないよ。
無理して笑ったり、明るく喋ったりしなくても大丈夫だよ。
小学校の頃、一緒に歌を歌って笑い転げたハルカは、一見おとなしかったけど、明るくて楽しい子だった。
きっとそれが本当のハルカだよ。
今は、色々辛いことあって、ホントのハルカがどこかに隠れちゃってるだけだよ。
だから、ホントのハルカがまた出てくるまで、ボクはゆっくり待つから、ボクの前では自然体でいればいいよ。
言ってしまってから、これがまるで告白のような言葉だったことに気づき、ショウタは思わず顔が熱くなった。
その時突然、ハルカがボクの首に抱きついた。
うわっ
ボクは驚いて素っ頓狂な声を出した。
ハルカは、一度手を離して、赤くなっているであろうボクの顔を見て、ニッと笑ってから、再び抱きついてきた。
僕の手は、体の横に張り付いたまま、ハルカの背中に手を回すことができなかった。
そのまま無言の時間が、ずんぶん長く続いた気がしたけど、実際は5分くらいだったのかもしれない。
やっと僕から離れたハルカが言った。
私、ショウタとならハグしても大丈夫だった…
先輩にハグされた時、私突き飛ばしてしまった。
男の人が苦手だからだって思ったけど、
そうじゃなかったのかも
今わかったよ。
なんでショウタなら大丈夫なのか
なぜなら
私、ショウタが好きだからだ‼️
突然の告白に、驚いて呆然としている僕の胸に
ハルカが飛び込んできた。
僕は、今度はそっとハルカの背中に手を回した。
完
最終回長くなってしまったけれど、ここまで読んでいただきありがとうございました。
そして、「春の少女」からここまで、
ショウタとハルカを見守って下さった方々、ありがとうございました。
これからは、二人で楽しい未来を生きていってくれると思います。