夢を食べるクジラ【企画参加その後】
あるところに夢を食べるクジラがいた。
そのクジラは、空を漂い、人々の夢を吸い上げて食べてしまった。
そのクジラが上空を通り過ぎると、人々は途端にやる気をなくして、自暴自棄の言葉を吐いたり、不機嫌になったりした。
ところが、ヒカルだけは違っていた。
クジラに夢を食べられても食べられても、次々と新しい夢を持ち続けた。
ケーキ屋さんになりたい
おもちゃ屋さんになりたい
野球選手になりたい
お笑い芸人になりたい
宇宙飛行士になりたい
探検家になりたい
お医者さんになりたい
探偵になりたい
彼は本を読むのが大好きで、何か本を読むたびに、どんどん夢が湧き出てきた。
そしてヒカルが夢の話を始めると、ヒカルの周りの人々も元気が出てきて新しい夢を持ち始めるのでした。
クジラとヒカルは、まるで競争するように、夢を食べられては、次の夢をもち、また食べられても、どんどん新しい夢を待つ、
と言うのを繰り返した。
夢を食べるクジラは、夢を食べてどんどん大きくなった。
そしてあるとき食べ過ぎて破裂してしまった。
そのとき、空から虹色の雨が降り注いだ。
その雨を浴びた人々は、失った多くの夢を取り戻した。
人々は、空に向かって、自分の夢を語りだした。
どんな夢を持ち、語っても、もう誰にも何にも奪われることはない喜びを、全身で感じた。
彼らの夢は、奪われることなく空に上って行った。
よく見ると、それらは小さなクジラのようだった。
小さなクジラは、どんどん集まって大きなクジラになった。
人々は、そのクジラを見て一瞬たじろいだ。
しかし、すぐに気が付いた。
あれは夢を食べるクジラではない。
夢を叶えるクジラに違いない。
なぜなら、そのクジラを見ると、自分の夢が失われるどころか、ますます具体的にイメージできたからだ。
その後、クジラは人が多く活気がある街の上で、時折見かけられるようになった。
人々はそれを、街クジラと呼んだ。
夢を食べるクジラが消滅し、街クジラが出現したのち、ヒカルは姿を消した。
考えてみたら、ヒカルはある日突然この街に現れた子供だった。
ヒカルは一体何者だったのだろう。
誰かがヒカルが街クジラに乗っているのを見たと言った。
ヒカルは、きっと今でも、街クジラに乗って
多くの人に夢を与え続け、夢を叶える手助けをしているのだろう。
本文ここまで
このお話は、以前、小牧幸助さんのシロクマ文芸部の、
「街クジラ」を冒頭の一語目にした小説、詩歌を書いてみませんか?
という企画のために書きかけていたお話でした。
でも、クジラを悪者にしたくないと思いがあり、投稿をやめて、別のお話を作りました。
それが、この下の記事です。
しかしその後、この「街クジラが泳ぐ空」の前段階のお話にしようと思い立ち、本日少し変えて完成させました。
どうして、最初のクジラが夢を食べるようになったのだろう・・・
そんなことを考えていると、更に想像が膨らみます。
きっと悲しい過去があったんじゃないかしら・・・
クジラびいきの私は、そんな風に考えてしまいます。
今日も世界中のたくさんの夢が、一歩前進しますように‼️
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