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木の実と葉

木の実と葉が、ある8月の終わり、おしゃべりをしていた。

この夏は暑かったね。
本当に暑かった。
まだまだ暑そうだよね。
でも、無事にここまで育って良かったよ。
もうすぐお別れだね。

葉は春、まだ緑色の幼い木の実が成長していくのをずっと見守ってきたので、感慨深い気持ちで、赤くなってきた木の実を眺めた。

一方木の実は、もうすぐ弾けて飛び出していけるのが嬉しかった。

木の実がふと尋ねた。
ねえ、僕の母さんのお花ってどんな姿をしているの?
綺麗なのかな?

葉は答えた。

それはそれは美しかったよ。
真っ赤な厚めの花びらで、寒い色のない世界をパッと明るくするんだ。
中央のおしべは、黄色く王冠のように輝いていて、とても気品があってね。

君のお母さんは、上品で、一輪の美しさもあったし、この木全体をを赤く染めた姿も美しかった。
それに地面に落ちた後も、その美しさを保ったまま、木の根元を赤く染めるんだ。

人間の子供たちが、落ちた花を拾って、レイにして頭に乗せたり、首にかけたりして楽しんでいたよ。

葉は、その頃を思い出すように、遠い空を見上げ微笑んだ。

そんなに綺麗な花だったのか。
木の実は嬉しくなりました。
いつか会えるかな…

あるいは、弾け飛んだ先で、朽ちることなく発芽を待っていたら、見られるかもしれないね…
葉は言った。

しばらくして、木の実は茶色く硬くなり、その割れ目から、黒くツヤツヤした種子が顔を覗かせた。

もうすぐ門出だな。

葉は、立派に成長した木の実を、誇らしげに見つめた。

うん。
今までありがとう!
僕はきっと、元気に発芽して、立派な木になって、いつか美しい花をたくさん咲かせるよ!
木の実は、ワクワクした様子で言った。

程なく木の実は弾け、黒い種は飛び出して行った。
さよなら!
さよなら!

種が飛び出した後、その殻は花が開いたように広がっていた。
クリスマスのリースや、部屋のオブジェの飾り付けにいいよね、
そう言いながら、女性達がその殻をいくつも取って行った。

一方種となって飛び出した木の実は、少し離れたところから、自分のお父さんである木を見つめ続けた。

落ち葉や土が上からかぶさってきた。
寒さは和らぐけれど、だんだん視界は狭くなる。
そしてなんだか眠くなってきた。
もう、眠たいよ、春まで寝ようかな…

そう思った頃、狭い視界の先に、赤い花がぽつりぽつりと咲いているのが見えた。

なんて綺麗なんだ…

木の実は、幸せな気持ちで眠りについた。

春に元気に発芽するために。

これは小牧さんのシロクマ文芸部の企画
「木の実と葉」から始まるお話
に参加したものです。

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