閏年の兎
閏年2月29日生まれの美智子は、今まで14回しか誕生日を経験していない。
かと言って、私14歳です、なんて言おうものなら、あの人大丈夫?と心配される年齢になってしまった。
そんな美智子の15回目の誕生日の朝、
ポストに不思議な手紙が入っていた。
過ごすことができなかった45回の誕生日をプレゼントいたします。
29日の夕方18時。雪平駅にお一人でお越しください。
雪平バス停はあるけれど、雪平駅なんてない。
間違えたのかな?
だけど、雪深いこの場所に、夜18時に来るバスもなさそうだけど…
そう思いながらも、どうせ祝ってくれる人もいないのだから、行ってみよう、
と、18時少し前に雪平バス停に行ってみた。
雪平バス停には、誰もいない。
まあ、そりゃそうか…
誰かのイタズラかな?
そう思った時、遠くからシュルシュルと音がする。
みるみるうちに、小型の蒸気機関車のような汽車がやってきて、目の前に止まった。
そして中から出てきたのは、真っ白なウサギ。
目はルビーのように赤く光っていた。
天崎様ですね。どうぞお乗りください。
列車に乗ると、中には他に数名の乗客がいた。
席は窓側にゆったりめの椅子が一つずつ、両側に5列あり、すでに6名の乗客がいた。
美智子は前から4番目の左側の席に座った。
再び機関車が滑るように走り出した。
するとウサギが一番前に立って、
本日のお客様は以上になります。
皆様ゆっくりと、迎えられなかった誕生日をお楽しみください。
といい、正面に大きなスクリーンを貼った。
そのスクリーンに日めくりカレンダーが映し出され、2023年2月29日の日にちになった。
すると目の前にある自分用のスクリーンに、自分の部屋が映し出され、美智子はスクリーンに吸い込まれて行った。
美智子は、いつも通り仕事に行き、いつも通りの1日を過ごしていた。
しかし自分のスマホの日付は、あるはずがない2023年2月29日の日付けになっていた。
美智子は、仕事帰りに小さなケーキを買って帰宅すると、1人でバースデーケーキを食べた。
なんだか嬉しくて、幸せな気持ちで布団に入った。
気がつくと美智子は列車の席でうたた寝していた。
目が覚めると、正面の大きなスクリーンのカレンダー2022年2月29日になっていた。
再びスクリーンに吸い込まれたけれど、やはりなんということもない普通の1日を過ごした。
2021年も、2019年も、
何年も同じような日を繰り返した。
誕生日があってもなくても、結局変わらないのか…
1991年2月29日
美智子は、当時付き合っていた彼と、デートをしていた。
ユーフォーキャッチャーを見ていて、あのウサギかわいい❤️というと、彼は7回も挑戦して、ウサギを仕留め、美智子にプレゼントしてくれた。
真っ白で、ルビーのような赤い目をしたウサギだった。
誕生日プレゼントだよ。
これは美智子の1991年2月28日の記憶だった。
もしもその年に29日があったら、その日だったということか。
でもなかったから28日だった。
それだけのことだったのだ。
それから前3回は、彼と過ごす誕生日だった。
本当に楽しい日々だった。
それより昔は、友達と過ごしたり、1人で過ごしたり…
誕生日だからと言って、なんということもない日々だった。
子供の頃は、毎年誕生会だった。
しかしこれも、実際はその前後の日にしてもらっていた記憶と同じだった。
一歳の誕生日には、大きなお餅を背負わされ、目の前に、そろばんや筆やお金を置かれた美智子は、今の私ならお金を取るぞ、と思ったけど、そろばんを取っていた。
ただ単にじゃらじゃらして面白そうだったからだろう。
これも記憶はないけれど、きっと2月28日とかに親がやってくれたのだろう。
その後、生まれる一年前の日付になった。
美智子は光る玉となって、美しい女神様の周りを漂っていた。
女神様が美智子に
2月28日生まれか、3月1日生まれになって、もう一度人生をやりなおしますか?
と尋ねた。
美智子は、
結局何日に生まれようが、私はちゃんと祝福されて育ち、60年生きてきた。
このままで構いません。
と答えた。
すると、スーッと身体が軽くなり、気がつくと私は、左手にあの日のうさぎのぬいぐるみを持って、雪平のバス停に佇んでいた。
ウサギをくれた彼は結婚を考えるほどだったのに、田舎で親の牧場を手伝うんだ…
と言う彼についていく自信がなくて別れてしまった。
でも後悔はしない。
私が選んで過ごしてきた人生なんだもの。
これからも、誕生日当日があろうが、なかろうが、一年一年大切に、精一杯生きていくだけ。
そうよねっ!
美智子は手にしたウサギを両手に抱いて、ウサギに語りかけた。
ウサギは、ルビー色の目で美智子を見つめていた。
小牧さんの、
♯シロクマ文芸部
の企画に参加させていただきました。
お題は「閏年」から始まる…
でした。