桃太郎探偵事務所 探し物はなんですか?
ガラガラガラ
久しぶりに、桃太郎探偵事務所のドアが空いた。
桃太郎さんは、お客さん?
と嬉しそうに腰を上げた。
自治会の集金かもしれませんよ、
とイヌくんがいう。
何かのセールスかもしれませんよ、
キジくんがいう。
借金取りじゃないですか?
さるくんが言う。
借金取りじゃないよ。
こんなにお客さんが少なくてもやって行けてるのは、
昔鬼から取り戻してきた金銀財宝のうち、
持ち主がわからなかったり、もういなかったりしたものが意外とたくさんあり、それらを引き取ったため、未だお金には困っていないのだ。
さて、そこに入ってきたのは、アラフィフと思われる女性。
いかがなさいましたか?
桃太郎さんが尋ねると、
探し物をしてほしいのです、
と言う。
探し物は何ですか
見つけにくいものですか
カバンの中も 机の中も
探したけれど見つからないのに
まだまだ探す気ですか、
それとも僕と踊りませんか
って、踊ってる場合じゃなーい!
斉藤由貴ですか?
と聞かれて、桃太郎さん
陽水の方です。
あ、オリジナルの方ですね、
そちらもいいですよね。
少し微笑んだ女性は、なかなかの美人だ。
このまま夢の中に行ってしまってもいけないので、桃太郎さんは、
エヘン、
と咳払いをして、女性に尋ねた。
で、何を探せばいいのですか?
それがわからないんです。
私は一体何を探しているのか。
この先どうやって生きていけばいいのか‥
聞けば、二人の子供は社会人になり、
夫は仕事とゴルフでほとんど家にいない。
たまにいる時はゲームをしていて、会話などない。
今まで子供のことで、バタバタと忙しくしていたものが、急になくなって、心にポッカリと穴が空いてしまってようなのです。
私はこれから、何を考え、どう生きていけばいいのか。
それを探してほしいのです。
桃太郎さんは、首を捻りました。
探しているものがわからない…
とりあえず、調査してみます。
一週間後にまた来てください。
桃太郎さんは、サル君に
5日間彼女の家に行って、様子を見てきてください。
と言いました。そしてイヌ君には
5日間彼女が出かけたら、その行くところについて行って、様子を見てきてください。
と言いました。
そして、キジ君には、
二人の子供さんに会って話を聞いてきてください。
と言いました。
6日目、2匹と1羽は、桃太郎さんに報告しました。
さるくんが言いました。
1日目は、忙しそうに家中の掃除をしていました。
その後は、料理をしたり、パソコンで何やら書いていたり、テレビを見たりしてました。
料理をするときに、よく歌を歌っていました。
イヌくんが言いました。
出かける時は、イヤホンで何やら聞いていました。
友達とおしゃべりしているのが楽しそうです。
1日は、友人とランチをしたようですが、その店が気に入ったらしく、店内や使っている食器を見たり、メニューを念入りに見て、素敵!を連発していました。
キジくんが言いました。
二人の子供さんたちは、母親は、料理が好きで、いつも美味しい手作りの料理を作ってくれたそうです。
時々、名前のない創作料理を作っては楽しんでいたとのことです。
また、役員など張り切ってやるタイプで、社交的だったようです。
桃太郎さんは、うーん、と首を捻りました。
子供さんは、お母さんの夢とか聞いたことはなかったのかな?
なかったようです。
キジくんは答えました。
翌日、依頼者の女性がやってきました。
見つかりましたか?
いくつか質問させてください。
まず、よく歌を歌っていたとのことですが、歌手になりたかったのですか?
いいえ、歌は好きですが、ただ歌うのが好きなだけで、うまくはないんです。カラオケとかで歌うので十分満足しています。
あとは、楽しい時など、知らぬ間に鼻歌を歌っているくらいです。
では、料理は好きですか?
はい、料理は好きです。
昔は、子供たちが、美味しい美味しいと言ってたくさん食べてくれるのが、すごく幸せでした。
今は作りがいがありません。
食べてくれる人がいたら、作りたいですか?
もちろんです。
飲食店をやりたいと思ったことはないのですか?
昔は思ってました。
でも無理ですよ。お店やるなんて…
そうですか、でも先日お友達とランチに行った時、
そのお店見て、又その気持ちが起こってきませんでしたか?
すてきなお店でした。
こういう感じのお店だったら、やってみたいなあ・・・って。
どんなお店がやりたかったのですか?
すると彼女は話し始めた。
カウンターに5~6席、4人掛けテーブルが2つ程度の小さな店でいいんです。
疲れてストレス溜めて帰ってきた人が、しゃべってストレス発散させて、笑顔で家に戻れるようなお店。
一人暮らしの人が、まるで家に帰るみたいに寄ってくれて、健康的な食事を食べられるお店。
お年寄りも気軽に来れて、会話を楽しむことができるお店。
旬のものを使った、ヘルシーなメニューにしたいの。
派手じゃなくても、懐かしい感じがするものや、健康的なもの。
ちょっと珍しいもの。
メインディッシュ以外は、沢山の小鉢の中から、いくつか選べるとかっていうのがいいな。
ご飯は食べ放題。
お店のウリは、私が大好きな奄美鶏飯又は、我が家直伝のカツオメシ。
中央に置いて、自由に食べてもらいたいな。
奄美鶏飯は、胃腸が疲れている時や、食欲がない時でも、美味しく食べられるんですよ。
食器とかにはお金をかけないで、できるだけ値段を安く設定するの。
特別な日じゃなくて、
誰かとしゃべりたくなったら、
手作りのご飯が食べたくなったら、
いつでも気軽に来れるように。
家族のためや、翌日の食事のたしに、
小鉢の料理はテイクアウトもできるといいな。
居酒屋というより食堂って感じかな?
お店の名前もきまっているの。
お店のインテリアは・・・
彼女は、急に饒舌になって、話し始めた。
桃太郎さんは、にこにこしながら聞いていました。
そして、それがあなたの夢じゃないんですか?
と言った。
でも・・・
そこまで具体的に考えているのなら、立派な夢ですよ。
いつか、この夢が実現できる日が来ることを信じて、できる準備からしていったらいいんじゃないですか?
彼女は、ふと上を見上げた。
そうね、今すぐできなくても、だからってあきらめることもないのね。
できても、できなくても、
思い続けること。
準備してみること。
いつ何があるかわからない。
もしかしたら、タイミングがあったら、
夢が実現する日が来るかもしれない。
計画ノートでも作ってみようかしら…
考えているだけでも、なんだか楽しくなってきたわ。
そう言って、明るい笑顔でほほ笑んだ。
みつかりましたね、探し物。
ありがとうございます。
これからの夢というか目標が見つかりました。
お礼にキビ団子じゃないけど、
よもぎ団子を持ってきました。
昨年の春に摘んだヨモギをたっぷり入れた団子です。
お召し上がりください。
そう言って女性は、瞳を輝かせて、帰っていきました。
よもぎ団子、美味しいっす。
サル君がむしゃむしゃ食べながら言った、
桃太郎さんは、心の中の探し物も探せるんですね。
犬くんが言った。
彼女の心の中にはちゃんとあったんですよ。
自分で隠してしまっていていたのを、今回自分で見つけた。
私はちょっとお手伝いした、
それだけのことです。
そういうと、よもぎ団子にかぶりついた。
桃太郎探偵事務所 第一話はこちら
桃太郎探偵事務所 第二話はこちら