冬の色鉛筆【シロクマ文芸部】
冬の色鉛筆の蓋を開けると、彼は、色を失いつつある秋の景色に色を塗り始めた。
彼が手にしたのは、白や黒や茶色。
しかし、それでは寂しいな、
と感じた彼は、
そこに緑のクリスマスツリーやリース
赤い服を着たサンタクロースや
黄色いお星様を書き足して行った。
しかし彼はふと、
何か色が足りない…
と思った。
しかしその色が何色なのか、どうしてもわからない。
彼は、人々が頭に浮かべる冬の景色を覗いてまわった。
しかし、そこに彼が描いた以上の新しい色は見つけられなかった。
お正月のお餅は白かった。
お餅の上のみかんのオレンジも
お節料理の赤や黄色、黒も白も
門松の緑も、赤い実の千両も
彼はさらに、時を進めた。
バレンタインデーの赤やピンク
シクラメンや椿、そのうち水仙や梅も咲き出したけれど、新しい色は見つけられない。
彼は暗く、今にも雪が降りそうな鼠色の空を見上げた。
するとその時、その雲の割れまから光が差し込んだ。
光が差し込んだ先を見ると、そこに黄色い菜の花が咲いている。
もう春が来てしまったのか…
彼がもう一度空を見上げると、雲の隙間に青空が見えた。
そうだ、見つけられなかった色は青だった!
そう気づいた時、もう冬は色を失いつつあった。
彼は春の色鉛筆の中に、青色があることに気づき、薄くなっていく鼠色の空を、青に塗りつぶしていった。
♯シロクマ文芸部