赤い傘
赤い傘がふわり
みみちゃんの頭の上に降りてきました。
みみちゃんは、さとちゃんが、赤い傘を開いたり閉じたりするのを見て、とても羨ましく思っていました。
やったあ
みみちゃんは、赤い傘を持ってクルクル回りました。
開いたり閉じたりしてみました。
開いた傘で、どこまでも飛んでいけそうな気がしました。
しかしすぐに、赤い傘はみみちゃんの手を離れ、ふわりと浮きました。
みみちゃんは、あっと思って手を伸ばしましたが、傘は飛んでいってしまい、みみちゃんは右手を上げたまま、その場に立ち尽くしてしまいました。
傘は、クマさんのところに飛んで行きました。
クマさんは、赤い傘を持って喜んで、ステップを踏みました。
みみちゃんが、
返して!
と言っても、クマさんは、
みみちゃんの傘じゃないだろう?
と言って、返してくれません。
クマさんが傘を持って、クマさんがいるところから飛び降りると、ふわりふわりと風に乗って下に降りてきました。
いいなあ、いいなあ、
私もあれ、やりたかったな…
と、みみちゃんは思いました。
しかし、クマさんが地面につくと、赤い傘はまたふわりと上に飛んでいきました。
クマさんも、あっ!と右手を伸ばしたまま、立ちつくしてしまいました。
傘は、一番高いところにいた、三角帽子の黒い魔女の元に戻りました。
赤い傘は、その魔女のものでした。
魔女は、赤い傘を手にすると、そっと傘を閉じました。
すぐ横の黒猫にコツンとあたって、黒猫が、ミャーと鳴きました。
魔女は、ふふっと笑って、何事もなかったように、赤い傘をステッキ代わりにして、固まりました。
その時目覚まし時計が、けたたましくなりました。
さとちゃんが、
ううーん
と言って伸びをして、ふと部屋の中を見ると、
あら?
出しっぱなしにしたはずのない、みみちゃんとクマさんが、なぜか右手を上に上げた状態で、部屋の真ん中らへんで立っていました。
さとちゃんは、不思議に思いながら、お気に入りのお人形のみみちゃんを抱いて、クマさんのぬいぐるみの手を下に下ろして、いつもの棚の上に置きました。
そして、最近親戚のお姉ちゃんにもらった魔女のお人形が持っている赤い傘をとって、傘を開くと、みみちゃんの上げている手に持たせました。
この赤い傘、みみちゃんによく似合うわね。
みみちゃんに赤い傘を持たせたまま、さとちゃんは、上や下にふわりふわりと動かしながら、嬉しそうにクルクル回りました。
その時みみちゃんの顔が、嬉しそうに笑っていることに、さとちゃんは気が付きませんでした。
クマさんの、羨ましそうな顔にも…
黒猫ちゃんが、いいの?という顔をして、魔女を見つめていることにも…
♯シロクマ文芸部
「赤い傘」から始まるお話の
企画に参加させていただきました。