カフェ4分33秒
カランカラン
入り口のドアを開けカフェに入ると、商店街の賑やかな音楽や街のざわめきが突然消えて、静寂が広がっていた。
マスターが、渋い低音で
いらっしゃいませ お好きな席にどうぞ
と、つぶやくように言う。
商店街の脇を入ったところにあるカフェ4分33秒。
決して広くはない店内に、ぽつりぽつりと人が座っている。
席に座ると、マスターが水と一緒に、一枚の紙を持って来た。
コーヒーを注文してから、楽曲に耳をすますが、音楽は聴こえない。
カフェのグレイがかった広い壁には、4分33秒という曲名とともに、五線譜が壁いっぱいに書かれている。
しかしそこに音符はなく、あるのは休符だけだ。
マスターがコーヒーを淹れるコポコポコポという音や、店内にかけられた時計のコチコチという秒針の音。
誰かが定期的に本をめくる音が聞こえる。
コーヒーのいい香りが漂って来た。
何だか心が落ち着く。
4分33秒経っても、誰も口を開かない。
静寂の中の小さな音に耳を澄ませながら、ゆっくりとコーヒーを飲んだ。
1時間後、瞑想から覚めたような清々しい気持ちでカフェを出た。
何だか新しい世界に足を踏み入れたような気がした。
本文ここまで 518文字
かなりオーバー
だけど、削れなくてこのまま出しました。
『4分33秒』
このお題が出た時、4分33秒とは何だろう?と検索した。
するとそれは、アメリカの音楽家ジョン・ケージが1952年に作曲した楽曲だということがわかった。
三楽章まであると言うのに、そこにあるのは休符のみ。
指揮者もいて、演奏者もいるのに、彼らは指揮者を見つめて休み続けるのだ。
そんなの音楽じゃないのでは?
と思ったりするけど、それは新しい概念の音楽として評価されているのだそうです。
難しいことはわかりませんが、その静けさの中にも何かしらの物音があり、それらに耳を傾ける、と言うことらしい。
ふと、坐禅をしている時、瞑想している時を思い出し、似たような効果があるように感じました。
よく学校であった、1分間の黙想。
その間我慢できずに薄めを開けて周りを見てしまったことがある方も、こんな4分33秒だったら、静寂を楽しめるかしら…
今回は何も捻らずに、そのまま思い浮かべた情景を書いてみました。
読んだ方が、このカフェ4分33秒にいるような気持ちになってもらえたらいいなあ、なんて思います。
これは、たらはかにさんの
♯毎週ショートショートnote
に参加したものです。
お題はそのまま
「カフェ4分33秒」でした。