鬼火焚きの思い出
以前私が住んでいたところには、正月明け、鬼火焚きという風習がありました。
竹で大きな櫓を組み、周りに燃えやすい藁や、辺りで伐採した木を置いて燃やします。
子供会と地域の方と共同で行う行事で、引っ越してきてまもなくだった私たちは、すごく楽しみでした。
櫓は年末に作っておきます。
これも、子供たちは、ほとんど見ているだけとはいえ、言われるがままに木を運んだりの手伝いをしました。
今思えば、作ること自体より、地域の人との交流や、鬼火焚きの櫓を作る工程を見る、ということが、一番の目的だったかもしれません。
そして年明け7日前後に、夕方5時ころだったか?点火式が行われます。
点火場所がちゃんと設けられていて、(燃えやすいものがおいてある)、そこに点火するのは、七草祝い(7歳の子)の子?だった気がします。
その頃には、地域に住んでいる人もちらほらやってきて、お正月飾りなどをもってきて、やぐらの周りの木のなかにほおり投げていきます。
しめ縄や、門松に使った竹、前年のお守りやお札、鏡モチを飾った紙製の台など、いろんなものがあります。
そんなにすぐには、どんどん燃えないけれど、そのうち火の勢いは激しくなり、炎は天を焦がします。
竹は、燃えてくると、パーンと大きな音を立てて爆ぜます。
近くにいると危険です。
もしかしたら、そのために周りに竹ではない木で囲んでいたのかもしれません。
しかし、この竹が爆ぜる音こそが、邪気を払うのだそうです。
それに、ちゃんと大人がいて、子供があんまり近づかないように見張っているし、消防にも届け出していて、消防車も近くに待機しています。
それでも、火の粉は飛んでくるので、高級なものや、火の粉で穴が開く素材ものは着ていかないように言われていました。
辺りがすっかり暗くなる頃には、櫓はほぼ燃え尽きます。
しかし、それからがお楽しみ。
周りに、おじさんたちがスコップで穴を掘り、その穴に真っ赤な炭を入れます。
穴は、ひと家族に一個。
たくさん人が来ても、どんどん穴を掘ってくれるので、大丈夫です。
私たちは、大きい網と、餅などもっていき、穴に網を載せて焼いて食べます。
鬼火焚きの火で焼いた餅を食べると、1年間元気で暮らせると言われています。
シシャモを持って行ったり、野菜なども一緒に焼いたり・・・
穴の中にアルミホイルをまいたサツマイモを入れたりもできます。
しゃがんでいるのはきついので、組み立て式の小さい椅子持参で来ている人も多いです。
翌年から自分たちもそうしました。
焼酎を持ったおじさんたちが、ご機嫌でうろうろしながら、飲まんかあ?と勧めてきます。
寒いけどビール持参の人もいます。
ちょっとした宴会場。
あんまり寒いときは、中央の櫓のところで火に当たったりもします。
帰るときには、帰ります!と声をかけると、おじさんたちが穴に土を入れて埋めてくれるので、安心です。
おじさんたち、かわいそうじゃん!
と思うかもしれないけど、うろうろしながら、あっちで飲み、こっちで食べ、おしゃべりしながら楽しそうです。
楽しかったなあ
でも、その地域も、あっという間に住宅が立ち並び、鬼火焚きをする場所がなくなりました。
最初の頃、規模を小さくしてやっていましたが、周辺の家から、灰が飛んできて迷惑だと苦情が入ったりもしたようです。
1日のことなんですけどね。
こうやって、地域の行事は、失われていくんですね・・・
それから毎年、正月が終わって、正月飾りを外すとき、鬼火焚きがあったらなあ…と思う。
ゴミに捨てるのが、ちょっと気が引けるのです。
しかし、捨てるところなどないのだから、仕方がない。
白い紙にのせ、塩を少量ふって(清めて)そのまま白い紙に包んで(出来たら他のごみとは違う袋で)捨てればよいと聞いたことがありますが、そもそもその白い紙がない。
しかたなし、新聞紙にくるんで捨てる。
正月がおわった、とそのまま他のごみと同様に、ゴミ箱にポイって人も多いかもしれません。
でも、それらは、ただの正月の飾りではなく、我が家を守ってくれる年神様を迎えるための飾りです。
そう思ったら、ちょっとそのまま、他の生ごみなんかと一緒に、ポイっとはしにくくなりませんか?
さて、全国では、「どんど焼き」と言われる行事があります。
この鬼火焚きと同じようなものなのでしょうか?
どんど焼きをしている地域に行ったことがないのでわかりません。
そして今現在、それがどれくらい行事として残っているのかもわかりません。
昔からの行事や風習やなくなっていくのは残念ですが、しかたないことなのかな。
お正月のお飾りを外しながら、そんなことを思いました。
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