小判食え
時折村に現れて小判を目の前に差し出し、籠った低い声で
「小判食え〜」
とすり寄る妖怪
人々は、この妖怪を「小判食え」と呼び、とても恐れた。
その妖怪は、ボサボサ頭で痩せ細り、目だけがギョロついていた。
昔一人の男が、
「小判食え〜」
と言われて、差し出された小判を口に咥えた。
すると、小判食えは怒り狂い、男に襲いかかった。
男はやっとの思いで、逃げた。
それ以降、人々は、さらに小判食えを恐れるようになった。
ある晩、貧しい家のおかみさんが、川でとった魚を出汁に、変形したり、小さすぎたりして売り物にならない野菜を煮ていた。
その時、家の裏に小判食えが現れ
小判食え〜
と言った。
おかみさんは、
小判を食べても、お腹は満たりません。
よかったら、粗末な汁ですが、食べますか?
と言って、小判食えに汁を差し出した。
小判食えは、大層喜んで、汁を平らげると、小判を数枚置いて帰っていった。
実は小判食えは、
小判を差し出し
「ご飯くれ〜」
と言っていただけだったのだ。
本文ここまで 411文字
これは、たらはかにさんの
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に参加したものです。
今回は、先に裏お題
「小判食え」
困った時の妖怪頼みになってしまいましたが、悪い妖怪じゃなかったみたいです。
いやもしかしたら、妖怪ではなかったのかもしれません。
誰かの聞き間違いと、見た目の恐ろしさから生まれた勘違いが、彼を妖怪にしてしまったのか…