【創作大賞2024】ボクんちの笑うお面 第2話
2 お面は見た
ある日ボクは、家の中でボールを蹴って遊んでいて、お父さんの大事なトロフィーを倒してしまった。
ガチャン
嫌な予感がした。
ボクがそっと倒れたトロフィーを手に取ると、一番上についているボールのところがぽろりと折れてしまっていた。
ボクは、しまった!と思ったけど、そのボールを、まるでくっついているかのように上に乗せておいた。
ボクんちの廊下にかかっている、気味悪い緑色の顔のおじいさんのお面が、
また、ボクだけに聞こえる声で、
ケッケッケッケッ
と
まるで、見たぞーって言ってるみたいに笑った。
ボクは逃げるように、自分の部屋に戻った。
お父さんは、よく布でトロフィーを磨きながら、嬉しそうにしているから、すぐにバレてしまうだろう。
どうしよう…
夕方、お父さんが帰ってくると、なんとすぐにトロフィーが割れてることに気づき、大声を上げた。
「トロフィーが折れてる!なんで折れてるんだ‼️」
するとお母さんが、
誠!あんたじゃないの?
とボクに聞いてきた。
「知らない。」
心臓はバクバクしていたけれど、ボクはお母さんやお父さんの顔も見ないで答えた。
真美、なんで折れてるか知らない?
お母さんがお姉ちゃんに尋ねた。
なんでボクには、あんたじゃないの?と聞いたくせに、お姉ちゃんには、なんでか知らない?なんて聞くんだ。
はじめっからボクだって疑ってるじゃないか!
ボクは腹が立って、絶対にボクだって言わないぞ、と思った。
ところがお姉ちゃんが
「さっき、誠がボールで遊んでる時、ガチャーンで音がしたよ。」
などと、お母さんに言いつけたのだ。
お父さんが
「誠、こっちへ来い‼︎」
と、怒ったような声で呼ぶ。
ボクは、お父さんの前で、そっぽを向いて黙っていた。
お父さんは、
「なぜ、壊したなら壊したと言わないんだ。」
と怖い声で言った。
お母さんも、
「これはお父さんの大事なものって知ってるでしょう。何とか言いなさい。」
と声を荒げた。
お父さんとお母さんは、二人してボクを睨む。
お姉ちゃんは、あんたがやったくせに、という顔をしてボクを見ている。
ボクは一言、
「知らない。」
と言った。
お父さんは、しばらく黙ってから、
「そうか。」
と言って、奥の自分の部屋に行ってしまった。
その顔は怒っているのか、悲しんでいるのか、よくわからなかった。
お母さんは、ブツブツ言いながら、又夕食を作り始めた。
お父さんも、お母さんも、お姉ちゃんも、大嫌いだ。
ボクよりトロフィーの方が大事なんだ!
ボクが、むくれ顔で見た先に、お面があった。
ボクは、お面に向かって行った。
「みんな大嫌い!」
するとお面がカタカタと揺れた。
あれ? お面が外れかかっているのかな?
ボクは、お面が黒い板から外れかかっているのかと思って、お面に触れた。すると、黒い板にくっついていたお面が、パカっと外れた。
え? やばい、これも壊しちゃったのかも…
でも、外れかかってたみたいだし、
そもそも自然に落ちたら割れちゃってただろうから、
むしろ、それを防いだんだ。壊したんじゃないよね。
などと、色々言い訳を考えながらお面を見つめた。
怖い顔だと思っていたけれど、よく見たら愛嬌があるようにも見える。
お面をひっくり返して見ると、顔の形をのっぺりしたような感じになっていて、下の方に、
鬼門寺と書かれていた。
どこのお寺かなあ?
ボクは、お面をそっと顔に当ててみた。
するとボクの顔より、幅が少し小さいそのお面が、まるで吸い付くように、ボクの顔に張り付いた。
うわっ
ボクは驚いて声を上げた。
だけどお面の目のところから、家の中の景色が見えたので、思わず、息を呑んだ。
お面の目のところには、ちゃんと目玉がついていて、見えるはずないんだけどなあ。
そこから見えた景色は、ボクの家のようだけど、なんか違っていた。
そこには、大きなお腹のお母さんと、それを取り囲むお父さんと、まだ小さいお姉ちゃんと、おばあちゃんがいた。
「見て見て!お腹がモゴモゴ動いてるわ。
元気がいいのね。」
「楽しみだなあ。」
「早く生まれてこないかなー。」
みんなは、お母さんを囲んで、楽しそうに話をしていた。
状況から言って、お腹の中にいるのはボクだ。
これはボクが生まれる前の景色なのかな?
すごいな、このお面、
昔のことが見えるんだ!
「私、いっぱいいっぱい可愛がるよ。」
お姉ちゃんが言っている。
みんな、ボクが生まれてくるのを、すごく楽しみにしていてくれてたんだなあ。
そう思うと、何だか嬉しくなってきた。
おばあちゃんが、
「もう名前は決めたの?」
と尋ねた。
お父さんは、
「決めたよ、『誠』だ。いい名前だろ。
誠実な子になってくれるようにさ。」
と言った。
お姉ちゃんが
「誠実って何?
と聞いた。
すると、お父さんは、
「嘘をついたり誤魔化したりしないで、真心をもって行動することだよ。」
と言った。
ボクはドキッとした。
ボクは、ボクがトロフィーを壊したのに、知らないって嘘をついて、誤魔化した。お父さんはきっと、ボクが正直に言って謝ったら、許してくれたはずなのに、どうして嘘をついてしまつまたんだろう…
ちゃんと正直に言って、謝らなくちゃ!
そう思った時、顔に張り付いていたお面がパカっと外れた。
ボクは、お面が外れてしまった事も、トロフィーを割った事も、正直に言おうと思って、お面がついていた黒い板を壁から外して、とりあえず板の上にお面を置いた。
するとお面は、何事もなかったように、ぴたりと板にくっついた。
あれ?くっついた! でも直ったからよかった。
ボクは元通りにお面を壁にかけると、
お父さんのところに行き、
「お父さん、ごめんなさい。 ボク、嘘ついてた。
ボクがトロフィー壊したんだ。」
と言った。
お父さんは、
「壊れたものはしょうがない。
でも、その時は、正直に言って、謝らなければいけないよ。
それに、家の中でボール遊びをするのもやめるんだぞ。」
と言った。
ボクが、
「うん、ごめんなさい。」
というと、お父さんが、ボクの頭を撫でてくれた。
いつのまにか来ていたお母さんも、ニコニコしながら、
「じゃあ、ご飯にしましょう。」
と言った。
台所に行くと、廊下でお面が
ケッケッケッケッ
と笑った。
ボクがお面を見ると、お面の目が少し笑っているような気がした。
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