宙に浮いた兜 2
(前回のお話は、最後に付けてあります)
ツトムのママは、みよちゃんを産んでから産後の日だちが悪く、体調を崩し、家で寝たり起きたりの生活をしていました。
パパは、家事もしながら、昼間は運送会社でも働き、朝晩や休みの日は、田んぼや畑に出て、家族が食べる分くらいのお米や野菜を作っていました。
パパは、優しいパパだけど、いつも疲れていて、なかなかツトムと遊んだり、ゆっくり話をする時間がなく、ツトムはちょっと寂しく思っていました。
ツトムの家は、昔は大きな農家だったらしいのですが、ツトムのパパのおじいさんが、お金をたくさん使ってしまったから、貧乏になってしまったのだと、パパのお姉さんが言っていたのを、ツトムは聞いたことがありました。
だからツトムは、寂しくても、お父さんやお母さんを、少しでも助けたいと、家のお手伝いをしたり、妹の面倒もよく見る優しい子でした。
その頃になると、蔵に飽きたコタローは、ほぼツトムの家の屋根裏で過ごすようになっていました。
コタローが、みよちゃんと遊ぶようになってから、みよちゃんが泣いたりぐずったりすることが少なくなり、ママもゆっくり休めるようになったせいか、ママの体調は日増しに良くなってきました。
そして家の中で少しづつ家事もできるようになり、パパの負担も減り、パパも元気になってきました。
その頃パパは、たまたま知り合った会社の社長さんから、業務委託を受けるようになり、独立して小さな運送会社を始めました。
ツトムが小学生になった頃には、パパの人柄もあり、近所の人たちからの仕事も増え、そのうちパパの会社は人を雇えるほどに大きくなりました。
ママも、パパの職場の事務を手伝えるほどに元気になり、ツトムはそんなパパとママをみて、とても嬉しく思いました。
一方みよちゃんは、少し言葉が喋れるようになり、コタローが近くに行くと、
こたおー こたおー
と喜んではしゃぎました。
コタローがみよちゃんと遊んでいる時、たまにツトムが横を通ることがありましたが、ツトムは、二人の方を見ることなく通り過ぎました。
コタローは、通り過ぎるツトムの横顔を見ながら、やっぱりちょっと寂しく思いました。
ある日、コタローは、お気に入りの兜の前に小さなお皿が置いてあることに気づきました。
そのお皿には、ビスケットが一枚乗っていました。
食べていいのかな?
コタローは、その美味しそうなビスケットを食べてみました。
美味しい!
一体誰が置いたんだろう。
食べてよかったのかな?
それからも、時々兜の前に、お煎餅やチョコレートが、少しだけ置いてありました。
一体誰が置いてるんだろう。
ある日コタローが、おやつを食べたあと屋根裏で寝転んで休んでいると、下の部屋に誰かが来ました。
小さな穴から、下の部屋を覗くと、ツトムがいました。
ツトムは、お皿が空なのを見て、嬉しそうにお皿を台所に持って行きました。
ツトムだったんだ。
ツトムはやっぱりボクが見えていたんだな。
コタローは嬉しくなりました。
でも何で見えないふりしたんだろう…
ある日ママが、床の間の兜の前におやつが置いてあることに気づきました。
「ツトム、何で兜の前にお菓子置いてるの?」
ママが聞くとコタローは
「お供えってやつだよ。
でも後で食べるから…」
と答えました。
「兜に?」
「そうだよ」
「変な子ね」
ママはおかしそうに笑いました。
つづく
前回のお話