ナイトバードに連理を Day 5 - A - 6
(933字)
「ま、こんなごつい鎧の中身、おっかない奴に決まってるのよね。誰だってそう思うわ」
「まあ……いや、信じてないわけじゃなくて。すみません」
早口に弁明した早矢は、隣で笑う友人の気配に気づいて逃げるように振り向いた。
「頼この野郎、知ってたな」
「お伝えするのを忘れていました。申し訳ございません」
「あとで覚えてろよ」
慇懃に首を垂れ表情を隠す頼を指さしながら、結局二の句を継げずに早矢は正面に向き直った。少女は楽しげな笑顔を崩さなかったが、呆れているようでもあった。
「……あー、いや、すみません。犬吠早矢です。狢で、夜目の」
「よろしく、早矢。私は天狗の七(なな)。アマフリと呼ばれる兵器の心臓役。獲って食べたりはしないから、そんなに畏まらなくていいわ」
七はリラックスした態度で敷布の上に腰を下ろした。その視線に促されるまま、早矢と頼も歩み寄り、敷布の上で胡坐をかいた。どこから取り出したのか七は大ぶりな茶碗を二人の前に並べ、素朴な茶器から薄緑の液体を注いだ。
「どうぞ」
「どうも」
躊躇なく口を付け茶を飲み干した早矢は、自身を睨む頼の視線に気付かなかった。茶は爽やかに苦く、乾いた舌をほぐすように程よく温かかった。
「……うまい」
「良かった。お口に合えばいくらでもどうぞ」
「そうしたいのはやまやまなんだが……。まず要点を聞きたい。アマフリである君が、夜目である俺に何の用なのかだ」
「急いでるのね。大丈夫、私の話は一つだけ。あなたに持ち掛けたい取引があります」
七はローブの下から左手を差し出した。その掌の上に置かれた陶器の小瓶は、初めて見る形でありながら早矢に昨日と同じ悪寒を抱かせた。
「水門石。茶賣から探すように言われたでしょう」
早矢は咄嗟に首を回して頼を見た。視線を交わした頼は小首を傾げ、無理解を明確に示した。それでも早矢が無言で頷きを送ると、頼は目を丸くしながら口の端を上げた。早矢は大きく深呼吸をつき、今度こそ冷静に七の方へと姿勢を正した。
「なんで知ってるんだ?」
「アマフリの知覚器官は鋭いから。これがアマフリの体液だっていう茶賣の話は本当よ」
それで説明は十分だと言うように、七は二人の反応を待たずに言葉を継いだ。
「こちらの要望は単純に、その逆。水門石を茶賣の手に渡さないで」 【Day 5 - A - 7に続く】
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