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ナイトバードに連理を Day 5 - A - 4

【前 Day 5 - A - 3】

(1054字)

 立ち並ぶ天幕の間を歩く早矢は、隣を行く頼が左右を見回して何かを探していることに気が付いた。早矢は頼の求めるものを直感し、迷いながらも口を開いた。

「……不躾な質問だってのは分かってるが……俺とお前の家族はどうしてるのか、聞いていいか?」

 頼は早矢に驚いた顔を向け、バツ悪げに口を歪めたが、すぐ開き直ったように左右の観察を再開した。

「まあ……僕も君も、奉公として西方商会に来た口だからね。あの夜、故郷と家族がどうなったのかは分からない、としか言いようがないかな」
「なら……」
「どうかな。僕がモッカの西端に住んでいたことは知っていたはずだから、合流の気があるなら向こうも来てるんじゃないかとは思うんだけど。いないってことは、つまりそういうことかもね」

 頼は早矢に向き直り、力なく笑った。その痛々しさに早矢は言葉を飲み込みかけたが、何も言わずにいることもできなかった。

「茶賣と同じことを考える奴が他にもいるなら、ここ以外にもモッカの狢が来てるところはあるんじゃないのか? 分からないだろ」
「こだわるね。もしかして、家族のこと思い出したのかい?」
「いや……」

 早矢は今度こそ返す言葉を失った。

 胎金界と現実の血縁関係は必ずしも一致しない。清心は早矢にそう伝えていた。事実、少なくとも早矢が共に暮らす両親の身には何事も起こっていない。つまり早矢にとって、元の犬吠早矢の家族は面識もない赤の他人に過ぎない。その生死に言及する資格が自分にあるとは、早矢にはどうしても考えられなかった。早矢の沈黙を塗りつぶすように、頼は軽妙に言った。

「まあ、僕も小さい頃に別れたきりだから。顔もよく覚えてないのは同じだよ」
「……すまん。余計なことを聞いた」
「冗談。君はなんでも僕に聞くべきだ」

 喧噪に満ちた天幕の群れを抜け、乾いた丘を登り始める。早矢がふと振り向くと、十数歩遅れて如何にも屈強な狢男二人が付いてきていた。頼に尋ねようと早矢が立ち止まると、二人の狢もまた距離を保って足を止めた。

「あれは見張りか」
「捉え方次第だね。茶賣から君を見張るよう命じられた、モッカの狢だ」

 頼はそう言うと、控えめながら親し気に手を振った。遠目に分かりづらかったが、二人の男は頷いたように見えた。振る舞い方を決めかねた早矢は、ただ伝わるように大きく会釈をした。

「さ、急ごう。アマフリを待たせるのも怖い」
「そりゃそうだが、気乗りしないぜ」
「アレを敵に回すのと、味方に付けるの、どっちがいいんだい?」
「選択肢があるなら聞くまでもないだろ」
「なら、いい機会だと思うしかないね」 【Day 5 - A - 5に続く】



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