ホサナ、ホサナ、グリモア、グリモア!
一人目、和柄シャツの男が投稿を見た。調度も眺望も遠い高層階の一室。まだ清潔なソファに寝転んだまま、男は部屋の奥に話し掛けた。
「アツシくん見て。ワンパンで50。見てって、絶対チョロい。ねえ見て。アツシくんてば。探して叩き、やろうよ、50、アツシくん」
二人目、S高校女子生徒は図書室で投稿を見た。
画像の人物は雑に隠されている。ただ彼が着るブレザーと胸元の校章には見覚えがあった。少女は隣席の肩を小突いた。
「うちの生徒じゃん。誰か知ってたら見て分かるくない?」
ホスト狂女はほとんど眠りながら投稿を見た。画像の背景にデジャブを覚える。朦朧と顔を上げる。よく似た景色が車窓を流れていた。
殺し屋は投稿を直観した。返信を躊躇うこともなかった。
『guess…街並みとシートから察するにSモノレールの大船・富士見町間。8駅14分の激走路線ですね。終着は1706〜ってリアルタイムの訳ないか。』
送信。他人の情報はまだ付いていない。殺し屋の心は充足した。
老女も投稿を直観した。その目は僅かに写る本の表紙に、その青さに吸い寄せられた。
「ネレクハタ黒書……写しにしても物騒な……流れてるって?」
競売のページはすぐに見つかった。出品者は「digBBs」。写真は表紙のみ。中身を映さない手口が玄人らしくは見える。
女は値段を上げた。57万。
六人目、バックヤードの司書が投稿を見た。目を引いたのは天──ページ上側の押印。赤字の文章は読めないが、その意味には心当たりがあった。記されているのはおそらく図書館の名称。つまり本は蔵書で、貸し出し状態にある。
「イヤだねえ。もう戻らないぜ、これ」
表示数は10kを超えた。 【続く】
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