逆噴射小説大賞2019 自作備忘録
2019年度逆噴射小説大賞の応募期間が終了しました。
218人の戦士が集まり640発のパルプが放たれた戦場で、筆者も5発のパンチを放つことができました。規定が違うとはいえ上限回数の半分しかお前に殴りかかれなかった前回のような後悔はなく、筆者は完全に憩っています。選考結果の発表が近づく頃には、そうも言っていられないでしょうが……(前回の一次&二次選考発表は11/30でした)。
パルプスリンガー各位に習い、精神が安定しているうちに投稿作の振り返り、思考の経路、何を摂取して書いたか、などを残しておくことにします。
六昆王
応募期間前に投稿した0発目。800字の冒頭というレギュレーションの感覚を掴むためのリハーサル、ウォーミングアップ、いわゆる素振り。趣向としては筆者のアイデアではなく、やはり参加者各位に習ったものです。
A:ともかく字数を試すことが目的だったので深くは考えず、観たい映画の冒頭を書くことに。今年は『イップ・マン外伝 マスターZ』(マックス・チャンの色気はもちろんシン・ユーの兄貴ぶりも良い)『トリプル・スレット』(アクション超人オリンピックの看板に偽りなし)とアクション大作を観られているので楽しい。投稿時期的には鑑賞前ですが『ジョン・ウィック:パラベラム』(もはや芸術)もオールタイムベストでした。
B:暴れる巨牛を殺すために人が集まる物語という宙に浮いたイメージがあり、宗教要素で強度を上げるため牛を象に変更。
C:アクションと象ということで、舞台は必然的にタイ。同国出身のアクションスター、トニー・ジャーは『マスターZ』『トリプル・スレット』両作にも出演しています。この話でも象使い役として出てくることでしょう。
D:象を殺そうと試みる役割は束縛に縛られない人間、コミュニティ外の来訪者であれば構図が分かりやすくなるため、部外者を投入。タイの部外者と言えば1600年代にシャムで活躍した山田長政と津田又左右衛門。『六昆王』は山田が六昆国(リゴール)の王になったという伝説から。『キング・オブ・ヴァジュラ 金剛王』の影響があるのでは?
二人は元自衛官、実戦を伴う派兵後に祖国を出て悠々自適のチンピラ生活を送っている、とすれば今回の設定としては十分と判断。山田のキャストは岡田准一、津田は坂口拓でお願いします。つまり岡田准一には元気なうちに本気のアクション映画(強い敵と殴り合うやつ)をやってほしいという願望です。
悪神遷し
あらためて一発目、ホラー。素振りもしたし、三週間で五本ならなんとかなるか……という楽観で当日を迎え、0時から投稿され出した大量のパルプ群に慄きつつ考えました。アドリブ瞬発力を試すためということでどうか一つ。
A:昨年の『来る』以来、怖いので避けていたホラー映画を少しずつ掘るようになりました。と言っても『コワすぎ!』シリーズや『貞子vs伽椰子』(共に白石晃士監督作品。11/15公開の『地獄少女』も楽しみですね)、『怪怪怪怪物!』『キャビン』『ナラーバーニンフ』といったホラーどころではない作品ばかりですが。
不条理、暴力、恐怖、笑い、人間の根性があり、予算が潤沢でも厳しくてもアイデアと工夫次第で楽しく、ダメなときは本当にダメ。ホラーの懐の広さにようやく気付き始めました。
B:建築を軸に進む専門性の強い話、という要素はディッグアーマーさんによる『近未来建築診断士』の影響です。ちょー面白いからみんなも読もう。逆に"未来的でなく""難易度が高い物を引っ越させる"話を、と考えた面は確実にあります。
C:老人の会話が主軸になっていますが、これは執筆当日に通院していた影響と思われます。なお筆者が病に罹っているとかではないのでご安心だ。なんだか大変そうな中年男性は『座頭市(2003)』の槍持って走ってた人のイメージ。
D:筆者が実際に歩いたある街をモデルにしました。当然こんなヤバい場所ではないのですが、それでもご迷惑だと思うので地名は伏せます。怪異にも名前が必要だろうと鎌倉幕府3代将軍、源実朝を起用しましたが、これも舞台とは関係ないです、念のため。
武蔵坊弁慶 vs. 廃刀令
二発目、歴史物。このとき読んでいた本からの連想。
A:『平家物語(訳:古川日出男)』を読んでいます。長い。あとから読み始めた『異修羅』『IQ2』を先に読み終えました。マジで長い。なんなら弁慶が出てくるところまで辿り着いてません。というか出てくるの? 勧進帳?
B:今回は完全に思い付きのタイトル先行。では弁慶に廃刀令を突き付けるのは誰か? という話で、"女"として二位尼・平時子を立てました。平清盛の正室であり安徳天皇の祖母にあたる時子は、壇ノ浦の戦いにおいて安徳とともに入水、自害。が、時子だけは胸に抱いていた天叢雲剣の霊験によって生きて竜宮城までたどり着き、安徳を失った悲しみから城を制圧、時間遡行能力を獲得して未来に飛び、平家政権存続の手立てを研究して自身の時代に帰還……というところから動き出す物語のようです。全然書けてない設定ですが結構好きです。
日もまた一星に過ぎず
三発目、サイバークライムパンク。タイトルをころころ変えたりしました。反省。
A:今回応募した5発の中で唯一、以前から書いていたため、すでに続きが存在します。冒頭シーンがほぼ800字だったので調整して投下しました。全体の進捗は2万字ぐらいで、話としては半分ぐらい。個人的な趣味としては完成してから出したいところです。
B:備忘録どころか発想が思い出せないので、特にここに書くことはないです。本当は百合展開なんですが、冒頭では一人しか登場していないのでなんとも。『サイバーパンク2077』楽しみですね。
姫には厳しい時代
四発目、百合SF。応募作品を読んでいく中でもっと百合が欲しいと思ったので。
A:学習代行装置ライフ・スクリプトと、ゲームのように台詞を表示するコミュニケーション・プロンプターは元々別のアイデアでしたが、なんか行けそうだなということで合併。フェイスベール、えっちですよね。
B:"ヴァンダム、シュワちゃん……"は情報量的にかなり無駄で減点対象になりかねないんですが、語感が良いのでお気に入り。アクション映画の話ばっかりしていますね。筆者が利用していたGEOはずいぶん前に潰れました。
C:『アステリズムに花束を』『デンデラ』『ガールズ ラジオ デイズ』などを摂取して百合ニューロンも発達してきましたが、まだまだ勉強中です。
囮の子ども(たち)
五発目。サイコスリラーめいた何か。最後の一発ということでしっかり意気込んで……ということもなく、結構フラットなテンションで。
A:転生して人生やり直し、みたいな話が刺さったことがないので、カウンターを打ちたくなりました。主人公も不穏なのは「怪物には怪物をぶつけんだよ」の精神ですが、結果として主旨の印象が薄まった感じがします。冒頭にしては匂わせ過ぎたのでは?
B:設定も展開も一番見えてないのでこれも書くことがないんですが、当社比ではウケのいい部類で、やっぱり観客を意識するのは難しいなという気持ちです。
未来へ
結果発表はまだ先ですが、個人的には解像度や演出配分を意識し、実践することができたという実感があり、強がりでなく充足しています。それはそれとして掠りもしなかったら凹むと思いますが……。とはいえ前回の参加を契機にアンソロジー企画に参加できるようになったりしたので(問題は実在しない精神的障壁だけだったのですが)、ともかく逆噴射先生への感謝の気持ちが強いです。
無事に物事が進めば来年、「ヘッズ一次創作アンソロジー」と「ガルラジ合同誌」に参加できるはずです。今回出した話の続きも……書けるものなら……。とりあえず『日もまた~』以外も考えてみます。以上です。 【続く】
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