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変化することを恐れず大成した新世代ロックスター、Bring Me The Horizonのすゝめ。

音楽が人生でいちばんの趣味になってから今年でざっくり12年くらいになるのですが、自分で情報を集めて音楽を「ディグる」ようになったのは、高校生の時にヘヴィメタルを聴くようになってからでした。家族はもちろん周りに聴いている人が少なかったこともあって、インターネットで出会ったメタラー友達の情報やYouTubeサーフィンなど、あらゆる手段を通じてまだ見ぬアーティストを知る楽しさにどんどんのめり込んでいきました。そんなこともあり、高校〜大学時代はメタルをよく聴いていましたが、ここ数年は自分の趣向も変わって、以前ほど聞かなくなっていました。

先日リリースされたとあるバンドが最高の新作を出したことにより、久々に自分の中でメタルブームが巻き起こされています。そのバンドの名前はBring Me The Horizon(以下BMTH)。イギリスのアンダーグラウンドシーンからやってきた、現代ロックミュージックの新たな覇者です。

こんなに聴かれるようになってたなんて・・・

先日リリースされたNew EP「POST HUMAN: SURVIVAL HORROR」、それはもう素晴らしい内容で歓喜しました。エモーショナルでメロディアスな作風が印象的な前作『amo』で名実ともに現代ロックバンドの代表格へとのし上がったBMTH、今作では原点回帰とも言えるヘヴィメタルサウンドを重視しつつ、これまで着実に築き上げたキャッチーさ、荘厳さすら感じる空気感をバッチリ合わせ、EPという形態ながらBMTHの全てがつめてみせたのです。とりわけファン待望の1曲として注目されたBABYMETALとのコラボ曲である「Kingslayer」は、BABYMETALが本当に大好きな彼ら(特にOliver)だからこそ作れたものであり、まさに「神曲」と言っても良いのではないでしょうか。これからさらにEPを出す予定だというのに、すでにこの完成度の高さは次への期待がさらに膨らみます。

個人的にはBMTHは高校生の時から聴いていて、それなりに思入れのあるバンドの一つだったので、2020年の今これだけ多くの人に聴かれ称賛されている状況がなんだかとても嬉しいです。メタルコアという一ジャンルのカリスマ的存在だった彼らが、「ロックバンド」としてここまでスターダムを駆け上がってるなんて、聴いている当時は思いもしませんでした。しかし、今改めてBMTHの過去の作品を聴いてみると、実はこの状況になるのは必然だったんじゃないかと思うくらい、バンドが綺麗に進化していったことに気づかされました。

そんなBMTHをこれからより聴いてみたいという人のために、今回は彼らのことをまとめてみました。

 進化することを恐れない、新世代のロックカリスマ

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BMTHは2004年に結成された、イギリス・シェフィールド出身のバンド。現在のメンバーはOliver Sykes(ボーカル)、Matt Kean (ベース)、Lee Malia (ギター)、Matt Nicholls (ドラムス)、Jordan Fish (キーボード、コーラス)の5人。Jordanが2013年に加入するまでは、ギターは2名体制で、結成〜2009年まではCurtis Ward、2009年〜2013年まではJona Weinhofenというギタリストがいました。

ちなみにバンド名の由来はかの有名な映画『パイレーツ・オブ・カリビアン/呪われた海賊たち』のラストシーンのジャック・スパロウのセリフから。ジョニデみると切ないよなぁ・・・

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僕とBMTHとの最初の出会いは高校生の時。当時SlipknotやEvanescenceを聴いてメタルにハマり始めた僕は、さらなる刺激を求めてディグをしていました。当時○ixiで仲良くなったメタラー友達に友人のすすめで知ったのが彼ら。ある日、学校帰りにCDを借りによく立ち寄った区立図書館であろうことか2ndアルバム『Suicide Season』を手に取り、その日のうちに彼らの虜になりました。。今思えば、公営の図書館でBMTHを借りれたなんてなかなかクレイジーな経験だったなと思います。

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その『Suicide Machine』のジャケットがこちら。作り物とはいえ臓物が出ているようなアートワークのジャケのアルバムが、公営の図書館で借りれたんですよ?全くどうかしていますよね。(もちろん良い意味で笑)ザクザクなメタリックなリフに、凶暴なデスボイス、パンクのような荒削りな疾走感、そして圧倒的カリスマ性にあふれるフロントマン、当時高校生の私がロックバンド(というかメタルバンド)に求めていたもの全てがBMTHに揃っていました。

また、Oliverが手掛ける歌詞も彼らの楽曲の数々の魅力の一つです。怒り、悲しみ、苦しみなどOliver自身の経験も経て書かれた歌詞の数々は、赤裸々で内面的な内容が多く、それらがリスナーたちの共感を呼んでいるんです。曲によっては哲学チックなものもあったりして、かなり解釈に考えを巡らすこともあります。

そしてBMTHの最も大きな魅力として、今回声を大にして言いたいのが「常に 恐れずにその音楽性が進化する様」であるということです。BMTHは結成してからずっと作品を出すごとに多様なジャンルを取り込んで自分たちなりに昇華をし、その表現力を増し続けているのです。後半で紹介しますが、かつてのBMTHは今以上にゴリッゴリのアングラなメタルサウンドを鳴らしていました。しかし、彼らはその頃から一つの枠に囚われることなく、キーボード、打ち込み、ストリングス、エレクトロ、ダンスミュージック、ヒップホップとアルバムを重ねることに果敢に新しい要素の取り入れにチャレンジし、見事に唯一無二の音楽を作ることに成功してきたのです。実際Oliverは昨年『amo』をリリースした際のインタビューでこのようなことを語っています。これら言葉からもBMTHが一つのジャンルに捉われない姿勢が伺えます。

"ジャンルに関係なく、音楽をやっている以上は誰でも進化し続けたいと思っているだろうし、聴いてる側も自分の好きなアーティストには進化してもらいたいと思ってるんじゃないかな。"
"ジャンルって便利だと思うし、音楽を色んな風に形容して、売りやすいキャッチコピーをつけるのはいいと思うけど、ジャンルのさらにその下にもサブジャンルがいっぱいあるだろ? 俺たちは一つのサブジャンルの枠に自分たちを収めるようなバンドじゃないし、そういうのを付けられると音楽が狭まって、あまり意味がないと思うんだよね。それだと、俺たちがやりたいこととは違ってしまう。だから別になんて呼んでくれてもいいよ。俺たちがロックだとして、それを好きかどうかは聴く人が判断すればいいと思う。"

ここ数年の直近2作『That's The Spirit』『amo』は(特に昔からの)ファンの間でもはっきりと賛否が分かれ、中には「見切りをつけた」と寂しいことをいう人もいました。しかし見切りをつけるにはあまりにももったいないくらい今のBMTHはロックバンドとして成熟し、ロックバンド不遇の時代において一際魅力的な存在になっています。それは常に彼らが周りの声に惑わされることなく進化をする「ロックバンド」としてのアイデンティティを、確固たる意志をもってしっかりと確立していることのがとても大きいのです。

ではそんなBMTHがこれまでどのように進化してきたのか、3つのパートに分けて書いていきます。


【結成〜2009年】アンダーグラウンドの絶対的カリスマ

バンド結成の翌年である2005年、『This Is What the Edge of Your Seat Was Made For』というEPでBMTHはレコードデビューします。デビュー当初の彼らは、メタルコアとデスメタルを掛け合わせた、いわゆる「デスコア」というジャンルのバンドとして分類されていました。テクニカルでかつどこかパンキッシュなメタルサウンドにかなり複雑に組まれた曲構成、そしてフロントマンOliverの激しく凶暴さを極めたシャウトが完璧に合わさった隙のない破壊力満点の音楽を鳴らしていました。『That's the Spirit』『amo』あたりからBMTHに入った人は本当に同じバンドの作品なのか?ときっと驚くと思います。笑 翌2006年に1stアルバム『Count Your Blessing』をリリース前作より疾走感ある曲も多くそのエクストリームな音楽性にさらに磨きがかかり、もうこの時点でBMTHはメタルキッズたちの憧れとしてカリスマ的な存在となっていました。#1の「Pray For Plagues」はこのデスコア期のBMTHを代表する曲で、現在ではライブでは滅多にお披露目されなくなりましたが、いまだ根強い人気を誇っています。また、Oliverはそのファッションセンスでも注目を集め、自身が手がけるストリートファッションブランド「DROP DEAD」は、今もキッズたちからの人気を集めています。


2008年、メタルコア界隈では飛ぶ鳥を落とす勢いとなった彼らは2ndアルバム『Suicide Season』をリリース。このアルバムからBMTHの止まらぬ進化が始まっていきます。その大きな要素の一つとなったのがキーボードサウンドと打ち込みの導入です。その楽曲への貢献度は強く、テクニカルだったギターが若干シンプルめになったのも相まって、これまでのアグレッシブな一面をしっかり継承しつつもより聴きやすい作風となりました。Oliverのボーカルも人間離れしたグロウルから、今のシャウトに近いものになり、#8の「Sadness Will Never End」ではゲストボーカルではありますが、クリーンボイスも導入しています。(声の主は同郷のメタルコアバンドArchitectsのボーカルSam Carter、Architectsもめちゃくちゃかっこいいバンドです。)これらの方向転換にファンの間では賛否両論となりましたが、『Suicide Season』の作成を皮切りに、彼らは徐々に既存の「メタルコア/デスコア」にとらわれない音楽スタイルを築き始めるのです。ちなみに2009年に、BMTHは初めての来日公演を果たしています。


【2010〜2014年】メインストリームへの足掛かり

『Suicide Season』から2年後の2010年、BMTHはメインストリーム上陸前夜を感じさせるターニングポイントとも言える作品をリリースします。3rdアルバム『There Is a Hell Believe Me I've Seen It. There Is a Heaven Let's Keep It a Secret.』です。キーボードの多用が増え、メジャーを意識しているかのようなメロディが際立つようになってきます。また、彼らの楽曲の中でも屈指のエモソング「It Never Ends」に代表されるように、女性コーラスやストリングスも導入したより壮大な雰囲気を感じさせる作風の曲も収録され、楽曲の幅が広がりました。このアルバムの面白いところは、デスコア期には考えられなかったようなメロディアスな曲調が増えたにもかかわらず、Oliverは相変わらずほとんどシャウトしているところ。アコースティックなパートでもOliverは普通にシャウトで叫び倒していてこれがまたかっこいいのですが、このアングラな匂いはまだ残っているのに、メロディがしっかりしているという、なんともアンバランスな感じがまさにBMTHの転換期を象徴しているように感じるのです。


そして2013年、4thアルバム『Sempiternal』で満を辞してRCA Recordsからのメジャーデビューを果たします。プロデューサーに迎えたのはSlipknot、Pantera、 Deftones、Dream Theater、Limp Bizkitなど錚々たる面々を手掛けてきたTerry Date。加えて同年はギタリストJonaのバンド脱退、新たにキーボーディストJordan加入という驚きのメンバーチェンジがあったのもあり、どのような作風になるのか注目を集めましたが、BMTHはついに大きな勝負に出ます。まず、これまで以上にメロディを重視した曲作りがされるようになります。『Suicide Season』の頃から徐々に導入したキーボードサウンドがJordanの加入によりさらに前面に出るようになりました。しかし、『Sempiternal』でのBMTH最大の進化はなんと言ってもOliverのボーカルスタイルの変化です。それまでシャウト主体だったOliverでしたが、このアルバムからしっかりと「歌う」ようになります。今やライブアンセムの一つにもなっている「Shadow Moses」を初めて聴いた時、そのエモーショナルな歌声に鳥肌が立ったのを覚えています。そのクオリティは、とてもいつ喉が壊れてもおかしくないんじゃないかというくらい、激しく叫んでいた人のものとは思えないほど。前述のメロディ重視の曲作りとマッチしたことで、表現の幅が圧倒的に広がりより多くの人に支持されることになりました。オーディエンスとシンガロングできるようなパートもあったりと、将来アリーナ、スタジアム級の会場で演奏することを意識しているところに、BMTHはこの先どう大きくなるのだろうと期待を胸に膨らませました。


【2015〜現在】「ロックバンド」としての成功と、終わることのない挑戦

『Sempiternal』でワールドワイドに名を知らしめることに成功してから2年後の2015年、5thアルバム『That's The Spirit』でBMTHはさらに大きく舵を切ります。前作こそインディーズ時代を想起させるような疾走感あるメタルコアな曲もありましたが、このアルバムで彼らはクロスオーバーなオルタナティブロックへと完全に変貌を遂げます。特にアルバムに先立ち2014年の10月に先行リリースされたシングル「Drown」は、シャウト一切なしの全編クリーンボイスに、壮大でエモーショナルな仕上がりの曲調で、ファンの評価をかつてないほど大きく二分させるほどの衝撃を与えました。アルバム全体としても前作で前面に出したメロディアスさに磨きがかかり、一部の曲でヘヴィさはまだ残りつつもこれまで以上にキャッチーな作風になりました。コーラスをしていたJordanの指導もあり、Oliverのボーカリストとしての表現力も格段と上がり、蓋を開けてみれば全米2位、全英2位と商業的な成功を収め、彼らは名実共に人気ロックバンドの仲間入りを果たしました。

同年には地元イギリスのReading Festivalでついにメインステージでの出演を果たしました。これが本当に最高のアクト・・・もはやトリにしても問題ないレベルの盛り上がり具合とパフォーマンスの完成度と言ってもいいくらいです。そして、BABYMETALのTシャツをこんなにカッコよく着ることができるフロントマンは他にいただろうか?笑

Linkin Parkとの比較が本格化しだしたのもこの『That's The Spirit』の頃だったかなと思います。Oliverのクリーンボイスが若干シャウト混じりな点や、歌詞も自身の経験に基づいた痛みや苦しみなどの内面的な内容である点、この辺りがもしかしたらChesterに通ずるものがあるかもしれないですね。メタルコアというよりオルタナティブなラウドロック/ニューメタルのような本作のサウンドも比較される要因なのでしょう。

『That's The Spirit』で大成功を収めて自分たちの創作活動に自信を彼らは、これまで以上にやりたいことをとことん突き詰めました。そうして完成したのが2019年1月にリリースされた6thアルバム『amo』です。

なんというジャンルに括るべきかといった議論をするのは、もはや無意味というべきなくらい振り幅に富んだ作品です。GrimesやCradle Of FilthのDani、Rahzelといったジャンルに拘らないクロスオーバーなゲストアーティストの登用も、この作品の多様性を象徴しています。ヒップホップやEDM、ハウスミュージックなど、特にサウンド面ではBMTH史上最も冒険しており、かつてのヘヴィメタルサウンドの面影すらないような曲が多数収録されました。それでもここまでフィットできているのは、この作品でいきなり新しいことに向き合ったのではなく、これまでアルバムを重ねることに常に自分たちのやりたいことにチャレンジをし続けてきたからこその結果だからです。

BMTHの音楽性の変化について毎回多くのファンからの否定的な意見も散見されましたが、それでも彼らは変化することを恐れずに歩み続けました。その際たるものが現時点ではこの『amo』になるのでしょう。終盤の「heavy metal」という曲は、インディーズ時代の面影が薄れたBMTHに失望するファンに対する彼らなりの意思表明であり、変化を成功に繋げられた彼らのロックバンドとしての覚悟を強く感じさせるものと言えるでしょう。史上最高にポップでバラエティに富んだ『amo』によって、彼らはさらに多くの新しいファンの獲得に成功し、同年8月のサマーソニック出演と11月のBABYMETALのツアーゲスト出演と2回も来日し、日本でもかつてない以上に人気が広がっていくことになったのです。

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ここまでおよそ15年。15年でこれだけ自分たちの音楽を進化させ、大きな成功を収めたロックバンドは、ヒップホップ/EDMが席巻する現代の音楽業界においては本当に稀有な存在だと思います。『amo』以降も彼らの創作活動が止まることはなく、昨年の暮れにはアンビエントな音楽主体で非常に前衛的な内容のEP『Music To Listen To~Dance To~Blaze To~Pray To~Feed To~Sleep To~Talk To~Grind To~Trip To~Breathe To~Help To~Hurt To~Scroll To~Roll To~Love To~Hate To~Learn Too~Plot To~Play To~Be To~Feel To~Breed To~Sweat To~Dream To~Hide To~Live To~Die To~Go To』をリリースしてファンを驚かせ、先日リリースの『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』ではヘヴィネス重視の原点回帰ともいえる作風になったりと、その才能は際限を知りません。BMTHの音楽に対するあくなき挑戦はまだまだ続いていくことでしょう。


エピローグ

いかがでしたでしょうか? 長文かつ超主観的な意見満載のものとなってしまいましたが、少しでもBring Me The Horizonという現代で最も最高なロックバンドの魅力が伝わり、彼らのすべての音楽がより聞かれるようになれば嬉しいです。現在『POST HUMAN: SURVIVAL HORROR』に続くEPを制作中ということで、早くも次の一手が楽しみでたまりません。そういえば今年の紅白歌合戦にようやくBABYMETALが出演するとのことですが、ぜひともBMTHと「Kingslayer」のコラボが実現するのを期待するばかりです。(多分ない。)


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