余は如何にして「松永K三蔵」になりし乎(か)ペンネームについて GOODBYE ミッフィーちゃん
芥川賞を受賞したことで、ありがたいことに私のペンネームも少しは世の中に広まった。多くの人が目にすることになり、およそ芥川賞作家のペンネームとも思われぬ、このアルファベット入りの奇妙なペンネームに面食らい、「なんて読むの? コレ」と混乱させてしまっているらしい。
ニュース原稿を読み上げるアナウンサーも困惑し、こんなやりとりもあったのかも知れない。
「これさ、このKってなに? 誤植じゃないの?」
スタッフ「いえ、Kですね。ありますK」
「え、ホント? じゃあ、これケイザブ……、ケイサンゾウ?」
スタッフ「ミドルネームらしいです」
「ん? ミドルネーム?」
スタッフ「松永、ケイ、サンゾウらしいです(困惑)」
つまり佐藤B作みたいな感じで、これを続けて読むと少し違う。ケイサンゾー、ではない。
私はあくまで、三蔵。ケイは別。だから、ケイ、サンゾー。
ちなみにペンネームは家族の名前の組み合わせ。「三蔵」は私に文学を与えた母の父、つまり私の祖父の名前。Kは家族のファーストネームで最も多かったイニシャル。
母と私のエピソード↓(芥川賞、受賞のことば)
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そうか、わかった。それはわかった。そんならばお前、ミドルネームならミドルネームらしく、「・」を入れるべきじゃないのか? 藤子・F・不二雄みたいに。
私もそう思う。いや、そう当初のペンネーム(群像新人文学賞応募時)は松永・K・三蔵だったのだ。
ちなみに、この第64回はストレート芥川賞の石沢麻依さん、野間新、芥川賞候補の島口大樹さんという、いわゆる“死の組”だ。「カメオ」は良くやった。(2024年12月12日単行本発売!)
優秀作を頂き、デビューが決まったけれど、すると編集部から、そのペンネームはどうなのか? と「相談」があった。ちゃんとデビュー後のことも考えてくれているのだ。イロモノと思われるんじゃないのか等……。(実際イロモノなのかも知れないが……)
群像文学新人賞は歴史ある賞だ。村上龍、村上春樹をはじめ、高橋源一郎や阿部和重、村田沙耶香など、偉大な書き手を輩出してきた。その純文学の賞にそんなふざけた名前はどうなのだろうか?
しかし「K」は納めきれなかった家族たちの名前、それを外すのは忍びない。それに目立つし、純文学史上ミドルネームは初だろう。
私は抵抗した。かのアメリカのロックバンドのKISSは、デビューする際にあのメイクで演ることをレコード会社から大反対されたが、メーク姿で売れてから、今度はメークを止めると言うと、更に激しく反対されたそうな。そんなエピソードをメールで書いて編集部に送った。生意気な奴だ。
とにもかくにも私はペンネームを再考した。
松永・K・三蔵。ちょっと長いか?
と、そこで私はあることに気づいた。いや、あるものに気づいた。いる。いるのだ。いや、見ている。こっちを。見覚えのある、あの目が。
そう、ミッフィーちゃんだ。オランダの絵本作家ディック・ブルーナのミッフィーちゃんが、こっちを見ている。
松永・K・三蔵。
松永(・K・)三蔵
松永(・×・)三蔵
松永・K・三蔵
一度見えはじめると、もはやミッフィーちゃん(・×・)にしか見えなくなってきた。
あ、これはマズい。私は純文学作家だ。シリアスなものも書く。そこにミッフィーちゃんが出てくるのはマズい。それに、ブルーナ事務所と面倒があっても困る。
そうして、私は「・」を外し、「松永K三蔵」になった。それで何の解決にもなってはいないが、編集部も、多少私も折れたと思ってくれたのか、じゃあ、それで行こうということになって、たぶん日本文学史上初のミドルネーム、アルファベットの小説家の誕生となったのだ。
そしてKISSのメイクを取るように、「松永三蔵」では面白くないと思うのだ。松永K三蔵、やっぱりこの名前が良いと思う。
おしまい
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