いきなりおっぱい。
先日、郵便局で順番待ちをしている時に、ふと、おっぱいを見つけた。
と、言っても、おっぱいポロリしている人を見つけた訳でも、胸がドでかい人を見つけた訳でもない。
記載台の横の脇机みたいなところにおっぱいが置かれていたのだ。
それはシリコン製の乳がんモデルのおっぱいだった。
「ご自由にお触りください」
のおっぱいだった。
多分、「人間、いつ乳がんになるか分からないから保険に入りましょう」というコマーシャルのためのおっぱいなんだと思うが、そこにあるおっぱいはあまりにも突然過ぎて、触る人は誰もいなかった。
そこへ3歳くらいの男の子とお母さんがやって来た。
男の子はいち早くおっぱいを見つけて、
「ママー!これ!」
とお母さんを呼んだ。
お母さんは少し離れたところで
「おっぱいだよ」
と優しく答えた。
男の子はおっぱいを触り始めた。
「ママー!」
またお母さんが呼ばれた。
「なあに?」
「いっしょにおっぱいさわろう!」
お母さんは恥ずかしそうに小さな声で
「お母さんはやめとくね。」
と答えた。
仕方なく男の子は一人でおっぱいを触ることにして、何かを思い出すような表情でひたすらおっぱいを握っては返していた。
「おっぱい・・・おっぱい・・・」
噛みしめるように「おっぱい」をつぶやいていた。
「あんまりさわっちゃだめ・・・」
お母さんは恥ずかしそうに諭しているが、その声は彼には届いていない。
突然覚醒したように
「ちくび!ちくびちくび!ちくびちゅーちゅー!」
と叫び出した。
「○○くん・・・ひゃめへ・・・」
お母さんの声はもはや声ではなくなっていた。
誰にも触られなかったおっぱいは彼に触ってもらえて「やっと私の存在価値を知ることができました。ありがとうございます。」と思っているかもしれない。
しかたないよね。
最近まで君のものだったんだもんね。
おっぱい。
懐かしかったんだね。
そんな気持ちで私は顔がほころぶのをそのまま許していた。
お母さんは死ぬほど恥ずかしそうだって、用事が済んだら男の子の手を引いて風のように去って行った。
久しぶりに可愛い親子に会えて嬉しかった。
しばらく頭から「おっぱい」の単語が離れてくれなさそう。