勝手な願い。
雰囲気も、提供される飲み物や食べ物も、働いている人たちも全てがやさしいカフェに行った時の話。
私はバレンタイン間近の殺気立ったデパ地下地獄を抜け、やさしい味のチャイと、やさしいけどゴツゴツとしたプリンを食べてのんびりしていた。
そこへベビーカーの男の子と4歳くらいの女の子を連れた夫婦がやって来た。
夫婦は女の子にスマホを持たせ、男の子をベビーカーに乗せたまま席に残し、注文と受け取りをするカウンターへと歩いて行った。
女の子はひたすらスマホをいじっていて、男の子は手を伸ばしてテーブルをバシバシと叩いていた。
男の子のバシバシが激しくなった。
女の子は全く気にせずスマホをいじり続けていた。
(あっ・・・)
と思ったその時、男の子がテーブルの上にあるメニュー諸々を落として店内に大きな音が響いた。
それでも女の子はピクリとも反応せずにスマホをいじり続けていた。
そこへ大きな音を聞きつけた父親がゆっくりとやって来た。
(お・・・どうするのかな)
と私は目を凝らした。
なんとなく、店内全体がそんな雰囲気だった。
隣のテーブルのお姉さんたちもスプーンを持つ手を止めて見つめていた。
と、その時、父親がメニューを拾って「バシィッ!!!!」とすごい音で男の子の目の前のテーブルを叩きつけて何事もなかったかのようにカウンターへ戻って行った。
私含め、周りの人たちは言葉を失い、口をぽっかーんと開けていた。
「犬や猫を躾けるようにテーブルを叩きつけることはないんじゃないか」
「夫婦のどちらか一方が注文しに行き、もう一方は子どもを見ることができるのでは?」
等、いろいろな「なぜ?こうすべきでは?」が頭の中を駆け巡ったが、
とりわけショックだったのは、男の子も女の子も全く「ビクッ!」としなかったことだ。
(あぁ。この子たち、慣れてるんだな。)
と想像できてしまうことがショックだった。
「やさしい場所にはやさしい人が集まる」
と信じて、やさしい場所を求めて行き着いた先でこんなことがあって、しばらく心がザワザワしていた。
隣のテーブルから
「・・・ちょっと、ありえないよね」
「ね。まだ子どもすごく小さいのにね。」
というヒソヒソ声の会話が聞こえてきたことがせめてもの救いだった。
やさしい場所にはやさしい人だけいて欲しいという願いは自分勝手な願いかもしれないけど、どうしても願ってしまう。
追伸。
写真のプリンは別のお店のプリンです。