ハチクロとスナックまきぽん。
「30歳までに結婚してなかったら、スナックまきぽんのママやる!」
「じゃあ、私、チーママやったるわ。」
これは私が大学1年の時に同じサークルの友人と交わした会話だ。
(『まきぽん』の部分は私の本名が入ります)
あれから16年。
私は独身。
「チーママやったるわ」と言ってくれた彼女は地元の人と20代で結婚して子どもが2人いる。
彼女は最初、友人の友人だった。
初対面で意気投合して、会ったその日に当時下宿していた私のアパートに来て、ごはんを食べて泊まっていった。
「これ、どっちかが男だったら付き合ってたよねー」
そう言ってお互いゲラゲラ笑った。
ある日、サークル終わりに
「全然彼氏ができない。どういうことや?大学生活はオレンジデイズやハチクロを想像していたのに・・・なんだこれは。話が違うぞ。灰色デイズに塩ドクダミじゃないか。なんなんだこれは。」
という愚痴、というかもはや嘆きを彼女とともに垂れ流しあっていた。
「20代で結婚したいな」
「ねー」
「20代で結婚する」
「うん」
「30歳までに結婚してなかったら、スナックまきぽんのママやる!」
「じゃあ、私、チーママやったるわ。」
この会話は確か、その時に出た会話だ。
すかさず「チーママやったる」なんて言葉をくれた彼女のことがさらに好きになった瞬間だった。
***
今朝、そのことを布団の中でふと思い出した。
自分の部屋の見慣れた天井を見ながら、
(スナックまきぽん、開店してから5年経ってるやん・・・いや、開店してないけど)
と、声に出さずに一人ノリツッコミをしていた。
(この緊急事態宣言下でスナックまきぽん、経営が苦しいだろうなぁ。『70%の飲食店は3年目で潰れる』と聞くし、コロナがなくても潰れてるかもな・・・。常連さんに申し訳ないな・・・その後、ママはどうなったんだろう・・・チーママは?店の後には何が入ったんだろう・・・)
ありもしない過去と現在についてぐるぐると考えていたら、スナックまきぽんがとても愛おしく、そして可哀想に思えてきた。
ふざけて作ったありもしないお店。
勝手に潰してしまったお店。
あの頃は、普通に生きていれば誰かと恋に落ちて、27歳くらいで結婚して、その翌年くらいには子どもが生まれて、慌ただしいながらも温かい家庭を作っていけるんだと思っていた。
普通だと思っていたことは、何一つ普通ではなかった。
彼女とは、年賀状でやりとりをする程度になってしまった。
年賀状には可愛い子どもたちがいつも載っている。
(スナックまきぽんも、あの子たちと同じくらいの年齢だったんだろうな。悪いことをしたな。)
今日は私の大切な城になっていたかも知れなかったお店を失った日として、偲ぶ日にしようと思う。
他人から見たら馬鹿げた話だろう。
でも、先に進むために、なぜか必要な気がした。
当時は苦しかったけど楽しかった。
あれはあれでひとつの青春だったのだと今になって思う。
さよなら、ありがとう。
スナックまきぽん。