おもてなしのかたち。
先日、兄夫婦が家にやってきた。
兄のお嫁さんは犬好きで、我が家の愛犬、ふくをかわいがってくれる。
ふくも人間が大好きで、特に犬好きの人が分かるらしく、とても丁寧なおもてなしをしていた。
まず、玄関先でべろんべろんに舐めて、全身を小刻みに震わせ、おしりをぷりぷりして、
「いらっしゃい!いらっしゃい!いらっしゃい!!さあさ!あがって!ねえねえ!はやく!こっちきて!」
と家の中に誘う。
ふくは割とあっさりしているので、少ししたらテンションがフラットになるが、お客様が来て嬉しい気持ちは続いている。
兄嫁の足元に背中をくっつけて座り、時々
「撫でてくれたらうれしいんだけどなぁ。ねえ、撫でる?この手、ぼくの頭の上に置こうや?な?この手ここに置こう?」
とでも言いたげに鼻でクイッと兄嫁の手を持ち上げて、自分の頭の上に乗るように誘導する。
兄嫁はふくのその行動を受け止め、嬉しそうに撫でてくれるので、ふくも兄も私も父も母も嬉しい表情になり、優しい空気が部屋に充満する。
次に、ふくは何かに気がついたように戸を開けろと私に訴えて来た。
部屋が暑いのかな?と思って戸を開けたら、「お前も来い」というように「わふ!」と言って私の顔をチラチラ見ながらある場所へ誘導した。
その「ある場所」とは、自分のおもちゃが入っている箱がある場所だった。
ふくは自分で箱の中をまさぐり、最近自分が一番気に入っている、ドーナツ型の音が鳴るおもちゃを取り出し、「どや」とでも言いたげにかみかみして「パプパプパプパープゥ!」と音を出してみせた。
小走りで兄嫁のところに戻り、
「見て見て!おもちゃやで!おもちゃ見せたるで!」
というように、おもちゃをポイっ!と投げて見せた。
「ほれほれ!音もなるんやで!おっちゃんが見せてやるさかい。」
というように音を何度も鳴らして見せた。
兄嫁は嬉しそうに笑っていたので、ふくも満足そうだった。
兄は、自分の大切な人に厚くもてなしをするふくのことが可愛くてしょうがないようだった。
その後、人間たちが話していることを
「わからん。おまえらの話すことはわからん。」
という表情で聞いてみたり、
通りすがりに兄嫁の手をペロッと舐めたりしていた。
「通りすがりにナチュラルに舐めたー!」
と兄嫁は嬉しそうだった。
通りすがりに手を舐めることは、ふくが普段、私たち家族にしていることだ。
どうやら、ふくは兄嫁を「たいせつなひとのひとり」に認定したようだった。
部屋全体がずっと優しさで満ちていたような、そんな感じがした。
彼なりのおもてなしの数々がとても可愛いくて可愛くて、「目の中に入れても痛くない」レベルを通り越して、「鼻の中に入れても痛くない」と思った。
本当に素敵な犬が一緒にいてくれて本当に幸せだ。
これからも彼の行動から目が離せない。