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卒業式の思い出。


そろそろ世間は卒業シーズンですね。

卒業式直後の、清々しいような、ほの甘いような、まどろみの中にいるような、低温火傷のヒリヒリを胸に貼り付けたような、なんとも不思議な空気が好き。


しかし、私の中学時代の卒業式はそうではなかった。

私は中学生の頃、ものすごく笑い上戸だった。
「箸が転げても可笑しい年頃」とはよく言ったもので、授業中であろうがなんであろうが、笑いのツボにハマってしまったら最後、笑い地獄が始まる。

下を向き、口を押さえ、小刻みに震え、腹筋は割れそうになる程引き攣る。
呼吸もできなくなる。

私の発作に気づいた隣の席の友人もつられて小刻みに震え出し、「お前のせいだ」と言わんばかりにバシバシと叩いてくる。

でも笑ってるから手に力が入ってなくて全然痛くなくて更に笑える。


グループワークなど、おしゃべりをしても良い授業のときにツボにハマったら、遠慮のない大きな声で笑ってしまっていた。

私の笑い声は相当大きいらしく、

隣の隣のクラスにいた友人に

「2限のとき、笑ってたよね。」

と言われるほどだった。

「笑うことは健康に良い」とか「笑えるということは幸せな証拠」などと言われるが、そんな悠長なことは言っていられない。

呼吸困難、腹筋崩壊、思考回路はショート寸前なのだから、生きるか死ぬかの極限状態だ。

毎回死にそうになる持病の発作だが、なんと、自分の卒業式で起こってしまったのだ。

それは「大地讃頌」を歌うときに起こった。

指揮者である、音楽の先生(男性)が舞台に登った。

いつもよりきっちりした首の詰まった不思議な服を着ている。

何かに似ている・・・・

時々テレビで見るような・・・・

「あ、北の将軍の服に似てる。」

思わず声に出ていた。

そしたらまず隣に立つ友人に火がついた。

それを見た私はツボにハマった。

ヤバい。ヤバい。ヤバい。

歌、始まる。

ヤバい。ヤバい。ヤバい。

もう先生がどんな動きしても例の国のニュースにしか見えないよ・・・

歌じゃなくて軍隊を指揮してるようにしか見えない・・・

お願いだからどうか動かないで欲しい。

動くなら体育館の裏とかで動いてくれないとこちらの命が危ない。

私と友人は死にそうになりながら大地を褒め、讃える歌を歌った。

歌が終わったら今度は思い出し笑い地獄がやって来た。

もう誰の言葉も耳に届かない。

在校生の声も、
来賓の声も、
校長先生の声も・・・

私たちはお互いの太ももをバシバシ叩きながら小刻みに震え、下を向き、耐えていた。

長く、苦しい時間だった。

この日を境に、慣れ親しんだみんなとバラバラになってしまう中学校の卒業式。

周りのクラスメイトたちは肩を震わせ、皆泣いていた。

私と隣の友人は肩と腹筋を震わせていた。

式が終わった後、幼馴染のお母さんが、目を赤く腫らしてこちらへ駆け寄ってきて私の手を握ってこう言った。

「まきちゃん!オバちゃんね、後ろから見てたんだけどね、まきちゃんが肩震わせて泣いてるからね、ウッウッ・・・もらい泣きしちゃった!ウッウッ・・・」


まさか「ごめん。笑ってた。」とは言えなかった。


「う、うん。」

と、ごまかした気がする。


まさか笑い上戸が人を泣かすとは思っていなかった。


それが私の中学生活最後の思い出だ。


後にも先にもそんな卒業式はなかった。


冒頭で小洒落たこと書いたけど、

清々しいような、ほの甘いような、まどろみの中にいるような、低温火傷のヒリヒリを胸に貼り付けたような、なんとも不思議な空気でもなんでもなかったな・・・・。

でも、まあ、今となっては面白い思い出だから良しとしよう。


最後になりましたが、
卒業される皆様、卒業するお子様がいらっしゃる皆様、本当におめでとうございます。

#エッセイ #笑い上戸 #卒業式