福島をパラレルワールドに導こうとしているの?―第45回「県民健康調査」検討委員会の専門家の見解に対する懸念
第45回「県民健康調査」検討委員会(令和4年9月1日)で福島県が検査対象者に対してアンケートをとる計画があることが公表されました。
甲状腺検査に関するアンケート調査の実施について(案) 資料5
https://www.pref.fukushima.lg.jp/uploaded/attachment/529195.pdf
福島県での検査対象者にアンケートをとった論文はもうすでに存在しています。
https://bmccancer.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12885-022-09341-6
この論文の結果は下記の通りです。
この論文から読み取れることは、対象者は放射線の影響が心配だから検査を受けているわけではない、学校でやっているから義務だと思って受けている、検査の有害性は認識していない、ということです。いずれも検査の強制性は無い、住民が心配しているから検査を続けている、検査の説明については十分努力している、とした福島県の説明とは異なる結果です。
このような論文が出たのに、なぜ福島県はこのタイミングでさらにデータを取ろうとしているのでしょう。この論文の内容が検査の継続にあたって不都合であると考え、それを上書きするデータを取ろうとしているのではないでしょうか。
そもそも、現在対象者に配布されているメリット・デメリットの冊子は1)科学的根拠のないメリットを提示して検査の受診を勧奨している、2)過剰診断や原発事故後の甲状腺スクリーニングはするべきでないとしたIARCの提言など本来県民が知るべき情報が欠落している、などの問題点があり、有識者会議で議論が紛糾してまとまらなかったにも関わらず「座長預かり」と言う形で県が強引に内容を決めたものです。
『福島県の甲状腺検査について県の住民に対する『説明』の問題点』
https://note.com/mkoujyo2/n/n740dfe34d227
不正確かつ不十分なこの冊子の内容を理解していたとしても、検査の内容を正しく理解していることにはなりません。たとえば、IARCの提言を知らなくても「住民は検査の内容を理解して受診している」と判断するのでしょうか。説明文書自体を改訂しない限り、調査しても意味がないのではないでしょうか。また、このようなアンケートの場合、質問の仕方で回答の結果が変わってきます。検査の継続をサポートするための恣意的な調査にならないように祈るばかりです。
またこの会議ではUNSCEARの報告書について専門家たちから下記の発言がありました。
要約すると、UNSCEARの報告は必ずしも正しいとは言えない、最終結論ではない、早期診断はメリットがある、調査を続けることで県民の不安に応えて過剰診断の割合もわかる、ということでしょうか。
世界の叡智を集結して10年をかけてまとめ上げたUNSCEARの報告書や「甲状腺がんの早期診断はメリットがなく過剰診断の弊害が大きいので推奨できない」、とする国際的な専門家たちのコンセンサスを無視して、福島の有識者会議はどこへ行こうとしているのでしょう。過剰診断が存在しないパラレルワールドでしょうか。パラレルワールドと言えば、一部のマスコミや市民団体などは福島県が過剰診断を理由に検査を縮小しようとしている、という情報を流しています。 それが本当のことなら、もうとっくに甲状腺検査は終わっているでしょう。