福島県は県内の甲状腺超音波検査を推進するための補助金を出している
無症状の対象者に対するがん検診目的等の甲状腺超音波検査は国際的にも推奨されていません。それが多数の住民に対して実施されているのが福島県です。県民健康調査以外の保険診療でも福島県では震災後甲状腺超音波検査の実施数が3倍に膨れ上がっている、とのデータも出ているようです(「福島の甲状腺検査と過剰診断」(あけび書房)より)。超音波検査の実施数が増えれば増えるほど過剰診断の被害者数は増えます。実際、韓国で大規模な過剰診断が発生した時には、マスコミが「政府が始めたがん検診によって、今多く発見されている甲状腺がんは『過剰診断』なのではないか?」と大きな見出しをつけた記事を掲載するなどの大キャンペーンを行ったことで、超音波検査の危険性を知った国民が受診しなくなって収束したのです。
では、どうして福島県で超音波検査の実施数がこのように極端に増えているのでしょうか。要因の一つとして考えられるのが福島県の補助金制度です。下記のように、福島県は
1)甲状腺超音波検査を実施できる人材の育成
https://www.fukushima.med.or.jp/wp-content/uploads/2022/04/認定要項(R40401現在).pdf
2)医療機関での超音波検査機器の購入
https://www.pref.fukushima.lg.jp/site/portal/kenkocyosa-kojyosen-kensakikiseibi.html
に多額の補助金を出しています。このような事業を行っている理由は、県民健康調査において学校検診以外でも受診できる機会を増やそうとしているからでしょう。
このような政策には2つの懸念があります。第一に、学校以外での受診機会を増やすことで結果的に県民健康調査の受診者数が増え、過剰診断の被害者が増えます。データを集めたいと考えている行政には好ましいことでしょうが・・・・。二つ目がさらに大きな問題です。福島県が超音波検査装置を買ってくれた、検査を実施できる人材教育もしてくれた、となったら病院はどういう動きをすると思いますか? 当然、「これを寝かせておくのはもったいない!」と思いますよね。それに、福島県内では「放射線被曝のせいで甲状腺がんにかかる人が増える!」という風評がおさまっておらず、不安を抱えている人がまだたくさんいるのです。病院が収益のためにこのような人を集めて検査をする、という診療行為が福島全域で広がるのは当然の結果です。また、仮に県民健康調査の甲状腺検査が中止となったとしても、これらの機材と人材はずっと「活用」され続けるでしょう。その結果、福島県内の過剰診断の被害は増え続けることが予想されます。
医療機関に対して行政がまず行わないといけないのは、過剰診断についての正しい教育です。しかし、福島県が過剰診断の被害の存在自体を認めていない現状で、そのような教育がなされているとは思えません。実際、研修会に参加された医師の方のブログでは、「無症状の対象者に甲状腺超音波検査を実施してはいけない」など、過剰診断のリスクについての基本的な説明なされている様子はありませんでした。もっとも、「検査をやって欲しいから補助金を出します」と言っておきながら「検査はリスクがあるのでやるべきではありません」などという説明をするはずもないのですが。
過剰診断の被害が拡大している時に、対象となる検査の受け皿を増やす、という政策はいささかまずいだろう、ということはすぐにお分かりいただけるかと思います。行政に関わっている方々はこのことを十分理解して予算の使い方を再考された方が良いのではないかと思います。