金沢市で開催された第66回日本甲状腺学会で語られた「福島の甲状腺検査」
2023年12月7日から9日にかけて、日本甲状腺学会が金沢市で開催されました。
今回は放射線の核種を用いた診断・治療の専門家が学会長であったこともあり、放射線に関する演題が多いように感じられました。福島の甲状腺検査に関連する演題も数台の講演と一般演題がありました。特に気になったことをお伝えしたいと思います。
福島の甲状腺検査の開始に深く関わった・関わっている先生方の講演
1、甲状腺がんが多発見の原因を説明しなかった。
福島の甲状腺検査で甲状腺がんが多発見されていることに対して、放射線の影響は考えにくいことを、複数の専門家が説明されていましたが、それではなぜこのような多発見が生じているのかに対しての説明や問題点の指摘がほとんどなされませんでした。
2、 過剰診断については「対策を講じている」と説明していた。
過剰診断については「対策を講じている」という説明が、どの専門家の講演でもなされていました。しかし、実際の過剰診断への対策とは、始めた時の基準(5mmより小さい結節は精密検査を行わない)のことであり、それは今もそのまま継続されていますので、この対策を講じても、多発見が引き続き起こっているのですから、対策になっていないのは明らかです。もし、放射線による罹患の増加ではなく、過剰診断もほとんど生じないようにやっているのであれば、福島の甲状腺検査で発見された甲状腺がんは、そのほとんどがいずれ発見されるものが早期診断されたということになるはずです。
福島県と医大から出されている甲状腺検査の説明書に書かれているように、本当に甲状腺がんの早期診断にメリットがあるのであれば、福島以外の地域でも、九州でも北海道でも東京でも、甲状腺検査と同じような甲状腺がんスクリーニングを行うべきだと言う意見や発想が出てきてもおかしくないのですが、甲状腺学会の専門家集団からはそのような質問や意見が出されることはありませんでした。もしかしたら、実は本音では害が大きいと認識しているからかもしれません。
3、検査の仕組みをしっかり保って行うという発言があった。
ある高名な放射線と甲状腺の専門家は、スクリーニング検査を行えば多発見が起こり、そのために過剰診断という批判は受けるが、だからこそ、しっかりとした仕組みで行わなければならないと発言していました。過剰診断があるともないとも発言せず、批判されるから仕組みをしっかり保って行うという発言は、過剰診断が生じ誰かが害を被っていたとしても、過剰診断の原因を見直すのではなく、批判に対抗するための仕組みが作ることが重要であり戦略であると言っているように感じました。
福島の甲状腺検査で発見された甲状腺がんの多くを手術し、その後の経過を診ている外科医からの報告
福島の手術例では再発が多いということを、演者は以前から強調していますが、今回も約10%に再発があることを報告しました。一般的には、がんに再発が多いと言われれば、早期発見が重要と感じる人が多いと思いますが、甲状腺がんの場合、早期発見したら再発転移が減らせる、あるいはそれによる死亡が低減できるという科学的事実は証明されていません。
演者は再発転移が多いから過剰診断でなかったという誤った発言を時々されますが、再発転移と過剰診断かどうかは別の問題です。
しかも今回の講演で、福島の甲状腺検査の再発した人たちは、自覚症状ではなく、超音波で診断されており、演者も「自分にしか見つけられない」というような発言をしています。微小なリンパ節転移を超音波で見つけているわけですが、これ自体、診断することが患者の利益につながるかどうかは、わかっていないことです。転移病変の過剰診断が起こっている可能性も十分にあります。一方で、診断された患者さんやその家族はどう感じるでしょうか。転移したことで命に係わると感じ、放射線との因果について悩むことになります。そしてこのような説明を受ければ、なおのこと検査で早く発見されたことに感謝することになるでしょう。
過剰診断の可能性を、診療している人も、検査に関わる人も、そして直接は関係していない甲状腺の専門家集団(甲状腺学会)も、指摘しない、ないと思い込む、あるかもしれないけれど見て見ぬふりをするといいう今の状況では、検査で診断された若い人とその家族だけが、このような再発や転移の恐怖に苦しむことになります。
現在、福島の甲状腺検査の責任者をしている医師からの報告
1次検査でも2次検査でも同意書をとっていること、死亡率を下げるためにやっているのではない(がん検診ではない)こと、健康の見守りなので任意であること、メリットとデメリットの説明をしっかり受けてもらっていること、この説明のためにアニメ動画などあらゆる方法で説明する努力をしていることなどのお話がありました。
これらはすべて、検査を正当化しようとする発言です。特にメリットとデメリットの説明については、実施側が説明したかということではなく、対象者が理解したかどうかが重要であることは、医療に関する意思決定の基本的なことですが、それは担保できていないことは論文でも報告されています。
事故直後の放射線の被ばくの懸念がある中、学校検査など検査を断りにくい方法で検査を継続することにより、検査を受けることが「当たり前」のことと習慣化している状況で、任意性を担保するのは至難の業です。検査の責任者が本当に任意性を担保していると思っているとしたら、住民との対話がなされていないのではないでしょうか。
検査のメリットについても、受けて異常がなければ安心できること、がんがあっても早期診断早期治療が受けられること、放射線に関する情報を知ることができることが挙げられてました。
このいずれもが、本当にメリットと言えるのかということを、講演を聞いていた甲状腺の専門家は真剣に考える必要があると思います。
受けて異常がある人はがんではなくても不安になることと表裏一体です。その多くはがんでないので偽陽性の不利益を受けることになります。本来感じる必要のなかった不安や二次検査の負担を、できるだけ少なくするためには、生じたことに対して心のサポート等で対応するだけでは不十分であり、検査の方法そのものを見直すことが必要ではないでしょうか?
早期診断早期治療は前述した通りです。放射線の影響についてこの検査で明らかにできるかどうかはこちらをご覧ください。
今回の学会の感想です
甲状腺学会は、福島の甲状腺検査に関わる人たちの発言を黙って聞き、異議は唱えず、質問も出ず、自分は無関係であるという雰囲気に満ちていました。
今までの甲状腺学会での様々な経験から、こうなるだろうことは、わかっていたことではありますが、とても残念に思いました。