カミを連れ帰った経緯。
金魚が家にやってきた。やってきて、しまった。
紅い小さいのが3匹と、大きな白い琉金が1匹。
わたしの制止は、子どもの暖簾の隙間をびゅうっと通り過ぎたらしい、と知った落胆は、目をランランとさせて見せた小さな袋の中をみて、吹っ飛んだ。なんだこの大きな金魚は。本当に金魚すくいの金魚なのか?
またしても息子ミラクル発動である。一体なにがどうしてこんな金魚が掬えたのか、皆目見当がつかない。あの若い的屋の兄さんの営業手腕なのか、前日に2回やったのだから出目金をよこせとたかった、大人げない夫の所業に報ってくれたのだろうか。はたまた、あの兄さんの中身はうちの息子と同じピュアな子どもなのかもしれない。
息子はもう1人の友達と、赤と白の一匹ずつの琉金が入った水袋を高々と掲げ、太鼓の音でもかき消えない大声を上げた。
「取れた!!2回やったら、2回目に、取れた!」
ほう、300円×2回×2人か。
あの兄さん、まあまあの採算は取れたらしい。
「チートって言われた!」
その言葉の意味をまだ知らない無邪気で貪欲な子どもたちの目は、暗闇の中でもわかるほど輝いている。出店の照明と明るい看板に、子どもの目。金魚が2匹。ああ今日は祭りだ。
どちらにせよ兄さんの思惑も、チートな金魚すくいも、真相は祭りのあとである。うちの子どもは、小さな水袋の水面で必死に酸素を補給する金魚たちの内、白い方を持ち帰るそうだ。
「名前、カミ!!」
ちなみ赤は?と聞くと、テンノー!と返ってきた。ほう、ますます早く水槽に入れてあげねばならないではないか。
そんなわけで、チートでカミとテンノーを貰ってかえる子どもたちを前に、なすすべもなく我が家の金魚生活は、また始まってしまったのだった。