仕事
満月の夜。
9時を回る前から、光が真っ白になった。
三原色は重なると白になる。
光は加算される。
あの白のどこに青と赤と緑があるのかわからない。
この網膜はその波を捉えないし
照らされる肌も変わらなく見える。
ないのに ある ということが、
こんなに普通で 日常だ ということに気がつかない。
すぐそこの境界線は こんなに揺らいでいるのに。
南南東に輝く白光の対局、
北北西の空の大半を占める埋め尽くす積乱雲は
おびただしい稲妻を孕むカマキリの卵のようだった。
見ていなさい、あの闘う姿を。と言う
優しすぎる光は恐怖だ。
あの稲妻の一筋でさえも
いまだ生活の一部に取り込めない
未熟なわたしたちの幼い肩を
優しく包みながら、後ろを見なさいと微笑む。
お父さんのお仕事を見ていなさい。
あの嵐の中に飛び込んでしまっては
命の砕ける音を聞くしかない無力な子。
見ていることも仕事なのです。
すべてがいのちのお仕事なのです。
そう聞こえた空でした。