「私が私であることの証明」本人確認はムズカしい:社会システムとインクルージョンの問題

米国在住スミさんが、東京の友人コイさんと、毎週Facetimeで色んな話題をトークします(第35回)。

1.海外在住者は、どうやって身元証明する?

図22

(…Facetimeの呼び出し音)

ーもしもし。

こんにちは。あれ、今日は土曜日なのに仕事。

ーそうそう。年度の振り返りを皆で集まってやろうという。

おお~チームの皆さん意識高いですね。

ーまあね。
でもこういうのって気合入れないとつい後回しにしちゃうからいいタイミングだよ。

確かに、良い機会ですね。
私は今日は、2年住んだアメリカからの帰国の手続きを調べてたんですけど。

ーおお。

結構ややこしいんですよ。
住民票をぬいて出国したので、新しい家の賃貸契約までにこんなプロセスを踏まないといけないのです。

ほn

ーははあ。
運転免許証やマイナンバーカードに記載されてるのが出国前の住所だから、本人確認と住所確認が出来ないんだ。

そうなんです。
マイナンバーカードも免許証も、私の顔と名前と古い住所を一致させられるだけ。

ーなるほどね。

2.「オオモト」の情報と、情報のスタッキング

図23

普通の引越しだと、前住所の自治体に「転出届」を出して「転出証明書」をもらって、それを次の自治体にもっていくんです。
でも、海外帰国だとそれが出来ない。

ーなるほど、だからオオモトの戸籍謄本まで辿るしかなくなる。
スミさんが「日本の○○で生まれた日本人です」という証明。

ほんせき

そうそう。
戸籍謄本を窓口や郵送で取り寄せるのも、面倒だし。。。

ーしかし、転出届を次の自治体に持っていくってのも変な話だねえ。
マイナンバーカードに紐づいて、前の自治体から次の自治体に、データが受け継がれればいいだけじゃない?笑

なんで手動で人が紙で持っていくの?て感じ。
ただ「証明の連鎖」を使って、情報の正しさを証明すること自体は、必ずしも悪いことじゃないとは思います。

ーほう。

ブロックチェーンだって、オオモトの情報と新しいアクションによる変化を記録させて、連鎖的に一致させることで、情報の正しさを証明しているわけだし。

ーまあそうだね。
でもだとすると、マイナンバーカードが本来証明するのは、あくまでオオモトの情報の「名前・顔・本籍」で、それ以外のデータは全部付加情報かもね。住所とか、年金情報、保険証情報とか。

確かに。
オオモトの情報に、いろんな情報が、スタッキングされてくるイメージですね。セットじゃなくてあくまで切り分けられてくっついている。

ほn

ー付加的な情報までセットで「証明書」を作ると、どれか一つの情報が変更になっただけで、その証明書は無効になっちゃうよね。

たしかに。

ーそういえば、今週話したエストニアのeKYC(デジタル本人確認)サービスの社長も、「私たちは出来るだけ情報をとらないようにしている」って言ってな。

3.本人確認のありかたを見つめることは、未来のアングラ経済を防ぐことにもなる

図24

それを前提にマイナンバーカードに話を戻すと、住民票をベースに自治体が発行するモデル自体が少し変な気がします。
本来的には、「日本国」という国が発行するもので、「オオモトの本籍をベースにすべきですよね

ーあくまで自治体は代理で発行してるだけで、東京都民がカードを発行する時、青森県でも徳島県でもできないと変だよね。

確かに。

ー実際、普段は気づかないけど、自分の本人確認や住所確認って切実な問題だよね。
こういう限界事例で初めてわかる問題もある。

住民票なしで賃貸契約してくれる物件なんて、ほとんど無いって不動産会社から言われましたよ。

ーそうなんだ。

私はたまたま実家があったから乗り切れたけど、ホームレスの方とか、外国から移住してきた方とか、そもそもの住民票ないじゃん!
どうするんだろう?って思っちゃった。

ーそれは別の問題にもつながってると思うよ。

別の問題?

ーたとえば外国人労働者受け入れのときに、本人確認とか住所確認の壁にぶち当たるとする。
「通常」の物件が受け入れてくれないとしたら、証明書なしでも入れますと唄う「特殊」な物件に頼るしかなくなる。

ふむむ。

ー「特殊」な物件が合法で問題なければいいけど、そうじゃなくて変に搾取したり、違法に不利な契約を要求したりするかもしれない。
そういう風にしてアングラ経済ができる。

確かにね。
インクルージョンのまさに反対、「インフォーマルエコノミー」が生まれる原因もありますね。

4.インドだって乗り越えた:フィナンシャルインクルージョン

図25

ーいうなれば、インドのデジタル公共インフラも、そうやって立ち上がったわけだしね。

たしかに。
本人確認書類を用意できない貧しい農民たちが、”本人証明ができなくて、銀行口座を開けない”問題から始まった。

ーデジタルで本人確認が誰でもできる社会システムを用意したことで、そういう人たちを正式経済に取り込むっていう、インクルージョン政策だよね。

まあ現代日本の場合は、こういう問題はごく少数な気もするけど…?

ーそうでもないんじゃない?
これから外国人労働者受け入れとか真剣に考えるにあたって、海外から来た人の本人確認、各種情報の証明をどうするかってのは大事なことだと思うよ。

確かに、これからどんどんそういう機会が増えていくかも。

ーそうそう。
ということで、これは大事なことなのでスミさんnoteにまとめといてください笑。

ひー。がんばります。
元々は、賃貸契約のために戸籍謄本までとらされるのおかしくない!?っていうただの愚痴だったんだけど…笑

ー笑。

コイさんに、重要な示唆をいただいたということでがんばります。
ではでは!

ーはーい、またね。

(…Facetimeを切る)

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スミさんとコイさんのFacetime
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!嬉しいです☺︎