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[理系による「映画」考察] シマロン(1931) ➡アントレプレナーシップに溢れすぎた主人公で、そりゃカッコイイけど、経営者としては...、のビジネスの話
今っぽい言葉を使い、この映画を一文でまとめると、
アントレプレナーシップ(起業家精神)に溢れまくり・男前で・任侠もあり・女性に優しく・常に心が躍る新しい事業をすることが生きがいである、男の一生を客観的に描いた映画、
になります。
演出的なこと記載すると、
・何もない荒野での、よーいドンからの馬車レースは、ピュアにカッコイイ
・始めのフリと、その回収は見事
・本人の死から、銅像への永遠の生は、ベタで良い
になるのですが、やはり、主人公のキャラ演出が際立っており、日本映画には絶対にない感じで、良いです。
主人公の演出としては、
・起業家独特のギラギラした目、および、それをマイナスに見せない雄弁さ
・抑えきれない好奇心・冒険心
・圧倒的な行動力
のキャラ演出がとても良く、若い方が憧れるカッコよいリーダー像なのかもしれません。
実社会でも、こういう人が起業に向いているのかなと思いつつ、実際そうだと思いますが、話は少しずれますが、ビジネス的な観点での起業と経営は少し違うことを記載しようと思います。
ビジネスは大きく分けると以下の3つのフェーズがあります。
・0→1:何もないところからビジネスを生み出す
・1→10:ビジネスを黒字化する(投資フェーズで基本的には赤字)
・10→100:ビジネス・利益を拡大・安定化させる(黒字フェーズ)
経営を行う経営者も、上3つ全部できる人は実はまれで、同じ経営者でも、それぞれのフェーズで得意・不得意があります。
ちなみに、各フェーズで一番希少性が高いのは、"0→1"で、これができるのはかなり特殊な人で、俗にいう"起業家"です。
"起業家"はこの映画の主人公のように、華々しく、目立つのですが、実は経営者としては弱点でもある、ものすごく飽きっぽい、の特性があります。
つまり、常に新しいことに目が向いてしまうため、得意である"0→1"に常に注力してしまい、"1→10"と"10→100"ができない(面白くなくて、やりたくない)のです…。ビジネスにおける経営は、利益を出さないといけないので、利益を出さないうちに次の"0→1"に注力すると、会社としては破綻します。
この映画を見ると分かるのですが、主人公は典型的な"0→1"の人で、この人が経営者だとすぐに会社が破綻することは明確なのですが、奥さんが"1→10"・"10→100"をやることで、会社は大きくなり・安定し、奥さんは最終的には議員にまでなっています。
つまり、経営者に求められる素質・リーダーシップも、フェーズによって異なり、世間ではその辺がごっちゃに語られているのです。例えば、リーダーシップに関しても、"0→1"のフェーズに関しては主人公のような強いリーダーシップが必要ですが、"1→10"・"10→100"は強いリーダーシップよりかは、奥さんのような、周りとの調整力のほうが必要になります。
"0→1"・"1→10"・"10→100"ができている経営者もいるじゃないか!(例えばサイバーエージェントの藤田さん)、という声も聞こえそうですが、そういう方は、責任感のもと、新しい"0→1"をやりたいのを抑え・我慢し・自己変革し、本人的にはあまり好きではない"1→10"・"10→100"を、黙々とこなしているのです。
ただし、"1→10"・"10→100"をできる人は、"0→1"よりも多いため、ビジネスがある程度安定したら、"1→10"・"10→100"をできる人に任せて、自身が好きで得意分野である"0→1"に再度チャレンジし、事業を拡大する方が多いように感じられます。
ちなみに、"1→10"・"10→100"をする人が、"0→1"を行った人への尊敬を忘れないのが、会社としてうまくいく条件かなと個人的には思うのですが(逆もしかりですが)、この映画でも、あんな破天荒にもかかわらず、奥さんの主人公への尊敬と愛が、終始一貫して描かれているのが印象深いです。
と、理系っぽい堅苦しい文章となりましたが、そんなことを意識しなくてもエンタメとして十分楽しめる映画でしたよ~。