YOASOBIの『もう少しだけ』について

今回はYOASOBIの『もう少しだけ』についての考察。この曲は2021年度、フジテレビのめざましテレビのテーマソングとして起用されている。また、『夜遊びコンテスト vol.3 with めざましテレビ』として募集され、大賞を取った『めぐる。』という原作小説から作成されたもの。

まずはこの小説の概要を。めざましテレビとの共催というのもあり、この小説もそれを意識したものとなっている。主な登場人物は3人。1人は小学生の娘を持つ会社員の男性。もう1人は御主人の墓参りに行こうとしている老婦人。最後の1人はスポーツの大会に行こうとしている女子高生。3人それぞれが朝のテレビの占いでの『いつもしない事に挑戦、ラッキーポイントはバス』を見ていて、それを頭の片隅に留めつつそれぞれの朝がスタートする。

歌詞の中にはこの3人の関わりのシーンが具体的に出てくるわけではないので、簡単にその流れも書いておく。最初に登場するのは女子高生。駅から電車で大会会場へ向かうはずが、人身事故により鉄道がストップしてしまう。そしてバスに切り替えてバス停に向かうも人の波。ここで墓参りに行くつもりでバスの列に並んでいた老婦人に出会い、バスの順番を譲られる。

続いてはこの老婦人に話が移る。女子高生にバスの順番を譲った後、人波を避け近くの喫茶店に入る。女子高生の事を案じつつも良い事(自分にとっていつもしない事)をしたと思い返す老婦人。一休みして自分の本来の目的である墓参りに行くために店を出る。しかし、電車はまだ止まったままらしくバスの行列は長いまま。そこで出会うのが1人目の会社員の男性。男性は少しだけあった仕事を済ませた後にこの老婦人に出会う。そしてこの老婦人が墓参りに行くつもりだった事を知り、車で来ていた自分が連れて行く事を提案する(男性にとってのいつもしない事)。

二人はお墓参りに行き、その後婦人の希望する場所で降ろし、二人は別れる。そして男性は、朝娘に頼まれたケーキを買う為に、ケーキ屋さんへ向かう。しかし、娘の希望するケーキは既に売り切れていた。すると、店員とのやりとりを聞いていた女性が声をかけてきて、先に買っていた売り切れたそのケーキを譲ってくれるのだと言う。この女性こそが朝、老婦人にバスの順番を譲ってもらった女子高生だった(女子高生にとってもケーキを譲るのはいつもしない事)。3人は、お互いの存在を知らないままに、頭の片隅に残っていた占いの言葉、『いつもしない事』を実践していた。そしてそれは知らず知らずのうちに自分にめぐりめぐって返ってきたというのがタイトルにもある『めぐる』に繋がっている。こんな素敵なエピソードから作られたのが『もう少しだけ』である。実際に歌詞とエピソードを照らし合わせて追っていく。

最初のサビの部分はこの小説のテーマともなっている部分なので割愛。1番の歌詞は、小学生の娘のいる男性の視点。『頼まれたおつかいと予定を照らす』とは娘に頼まれたケーキを仕事のどの合間に買うかを思案する様子。『君が教えてくれた』からは、娘がケーキを頼むついでにテレビの占いを伝えている様子である。そして男性は出社していく。そしてそのままサビへ突入。ここも特別どこのシーンという事ではない。

2番の歌詞に入って今度は老婦人の視点へ。『暗いニュースが流れる朝に』とは、今のご時世に触れている。原作ではこのコロナ禍の表現が3人のエピソードにも出てくるが、歌詞にはあえて『暗いニュースが流れる朝に気持ちが沈んでいく朝に』という表現に留めている。『自分はいらない存在?』というのはこの老婦人の気持ち。このコロナ禍で言われる『不要不急』に当てはめてしまうと、自分にとって全ての行動が不要不急になり、まさにいらない存在なのかと思ってしまうシーン。しかし、占いで『いつもしない事に挑戦』と言われた事に背中を押され、亡きご主人のお墓参りに行く事を決意する。『あなたの事を思い出したんだ』からの歌詞は、お墓参りを決意したシーンなのだが、こんな言葉で表現するのがとても素敵に感じる。

続く3番の歌詞はスポーツの大会に行く女子高生。『待ちに待ったそんな朝に』とは、もちろん大会の事を示しているが、コロナ禍で様々な大会が中止になりようやく開催される事への強い想いが隠されている。『不意に触れた誰かの優しさが私の優しさに変わったんだ』とは、朝バスの順番を譲ってもらった事で、後に買ったケーキを男性に譲ってあげる行為に繋がる事を示す。後は、エンディングに向けて自分が一歩踏み出して誰かに手を差し伸べたらそれがいつか自分に返ってくるというこの小説のテーマとも呼べる『めぐる』を表現している。『情けは人の為ならず』という諺そのものでもある。そして、最後に『今日もどこかであなたが今を生きるあなたが小さな幸せを見つけられますように』として歌は終了する。人との関わりが希薄な人にも幸せが来るようにそっと背中を押してくれる、Ayaseさんからのメッセージだ。

私がこの曲を初めて聴いた時、2番の『自分はいらない存在?』という言葉が深く胸に刺さった。自分自身が常日頃思っている事だからだ。今が幸せではない自分には、いらない存在なのかもと考える事はしばしばある。でも、曲の最後の歌詞のメッセージを聴いて、それは私に向けた言葉ではないかもしれないけど、それでもとても嬉しく感じ思わず号泣した。恥ずかしい話だが、この曲が公開された日は1時間ほどずっと聴きながら泣いていた、ある意味特別な歌でもある。

この曲のMVは、この記事を書いている時点ではまだ公開されていない。歌詞では小説のエピソードを具体的には表現していないが、恐らくこの3人のシーンが色濃く出たものが出来上がってくるのだろう。そのMVを見ながらまた号泣するのを楽しみにしている。それがまたYOASOBIの楽しみ方の1つでもあるのだ。

#YOASOBI #もう少しだけ



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